きままに読書★
読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。
「愛なら売るほど」榎田尤利 (ビーボーイノベルズ)
表題は泉が10年来恋焦がれてきた飴屋との再会から。
偶然の采配で同じマンションの上下階で暮らすようになって訪れた
顔を合わせる機会。
泉の職業柄、どうしても切り離せない橘の存在。
彼を巡る勘違い甚だしい会話は、嘘は何一つ言っていないところが面白い。
勘違いに押されて飴屋がとった暴挙。
結果が祝福で良かったね。
同時収録はその橘の恋。
どれだけカッとなってもあの行為は頂けない、と思いつつ。
言葉が足りない大人は、思い込みと、時にその言葉に振り回される。
橘との出逢いは小谷にとっては息を吹き返すための必要な出逢い。
切ないけどとても良かった。
最後の描き下ろしは御馳走様、とひたすら笑顔。
独り暮らしを始めた娘は、バイトや合コンに充実した生活を送っていました。
当時は携帯がまだ普及し尽くしていない時代。
家電にいくら電話をしても、娘と連絡が取れない。
訪ねた部屋は誰もおらず、鍵がかかったまま。
心配でたまらなくなった父がとった暴挙は、なんとアパートを2階までよじ登って
ベランダから娘の部屋に侵入するという荒業。
結果、近隣の人が警察に不審者ありと通報。
……という、友だちの姉の体験談を思い出しました。
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「流塵 神尾シリーズ4」北方謙三 (集英社文庫)
へし折られた翼を取り戻し、生き返った男。
乗り越えるべき壁にぶつかった男。
自らの足で立とうとする、成長著しい少年。
彼らは神尾と出会い、神尾と行動を共にする。
ウイグルからタクラマカンの砂漠を抜け、敦煌へ。
目指した国は、日本。
叶うことなら、四人で。
誰一人欠けることなく四人で。
年若い彼らが成長していく様をみていれば、彼らの未来を希う。
またかよ!とは言ってはいけない。
だけど、言いたくなる。
わかってはいたけど、またかよ、北方!(涙目)
自らの誇りに殉じた彼らに悔いはなかったはず。
流れる塵と共に、やすらかに。
もはや、足手まといとは言わせない、秋月。
キミの本職はなんだっけ?と言いたくなるくらい、いい仕事したよ。
「ごめんなさいと言ってみろ」榎田尤利 (ビーボーイノベルズ)
意地っ張りがふたりそこにいたら、ぶつからないわけがない。
久々野と律の子供じみた言い合いがとても楽しい。
反発しながらも、仕事を通じて縮まっていく距離感。
書いた(描いた)作品に魅了されるということは、
その人の感性に共鳴するということと同義。
惹かれあうのは必然な気もする。
久々野が律を腕の中にしっかりと抱きしめる、
10歳離れた年の差故の包容力と甘さとやさしさが心地よい。
律が抱えていた失恋ががありきたりなもので終わると思ったら、
そこからの深みのある展開と説得力はさすが榎田さん。
テンポよく楽しく読了。
「妬いたんだ」
「焼いたって、何を?」
こういう噛み合わないやり取りがとても楽しかった。
で、最後にカチッとはまる小気味の良さ。
ハードボイルド好きとしては、久々野の書いた作品を是非読んでみたい!
と、思っちゃうよねー。
「炎天 神尾シリーズ3」北方謙三 (集英社文庫)
死ぬために生きるのではない。
生きるために生きるのだと。
胸倉を掴んで叫びたくなる。
遠い異国の地で、
自らの人生の舵を死に向かって切った男がいた。
走り出した船は、誰にも止めることはできない。
そんなの結局は自己満足じゃん!とやっぱり叫びたくなるけれども。
それが男の生き様なのだと。
言いくるめられてしまうのが北方作品。
見守るしかないのだ。
信天翁の件は涙しかなかった。
「度胸のないヤツ」呼ばわりされていた秋月の
成長著しい姿がとても頼もしい。
習いつづけたボクシングがきっちり身についているのが
ちゃんとわかるのも素敵。
神尾にはやはり海が似合う。
だけど、探偵業も板についたと思ってしまう。
どこにいても、自らの生き様を貫けば、自分らしさもついてくる。
「きみがいなけりゃ息もできない」榎田尤利 (ビーボーイノベルズ)
共依存という言葉ではもはや生ぬるい東海林と二木の関係。
その歪みと自分の抱えた恋情に気付いてしまった東海林は
タイミングよく介入してきた他者の存在を理由に二木の手を放そうと
悲痛な覚悟を決めたわけだけど。
二木のダメっぷりに共感できるはずもなく、
世話を焼きすぎる東海林にと突っ込みたくなりつつ。
ああ。だけど榎田さんの描く淋しさを抱えた人にとてもとても弱い私は
敗北感に塗れながら涙。再読なのに嗚咽。
結局、一度離れる必要はあったんだと思う。
無自覚なままだったらどこかでダメになったかもしれないから。
開き直った二人の強固な結び付きがとても嬉しい。
ガルガル唸りつつ、良い話だったわよ!とやっぱり敗北感。
何と戦ってたんだ、私(笑)
東海林を今風に「スパダリ」と言えないところが、
彼のおかん気質が遺憾なく発揮されちゃっている所以なんだろうなぁ。
でもイイ男だと思うんだ。
「灼光―神尾シリーズ2」北方謙三 (集英社文庫)
心は自由だ。
何者にも縛られない。
男には男の、女には女の動機があり、理由がある。
誰に強制されたわけでもない。
自分にしか意味のない理由で彼らはそこにいる。
乾いた灼熱の大地、アフリカに。
たとえそれが命を懸けた選択であったとしても、
それは、彼ら自身で決めたこと。
だから彼らは、頑ななまでにまっすぐ突き進む。
自らの心に誓った使命を果たすために。
係った者たちの心に傷を刻んだエンド。
だけど、明日を迎えた彼らは生き続ける。
血を流し続ける心。
「大丈夫ですよ」
その言葉が、強がりではなくなる日がくるといい。
水滸伝を読んできたおかげで「死域」という言葉がどうしたって出てくるシーンがある。
燕青の姿が神尾と重なった。
ほんのちょっとだけ触れられる神尾と秋月の10円でのナイフのやり取りがとても好き。
この表紙、読後に見ると込み上げる思いがひとしお。
「進撃の巨人 25」諫山創 (講談社コミックス)
語られる歴史。
国が二つあれば、主張も二つある。
そして、正義も。
何が正しくて、何が過ちなのか。
その時代を生きる者には、いや、後世を生きる者にだって
ジャッジすることは難しい。
纏まりかけた人心。
高らかな宣戦布告。
その瞬間の、静から動へのあまりにも衝撃的な転換に、ただ震える。
あの構図、すごすぎる。
異国で戦う戦士たち。
少年だった彼らはもういない。
「死ぬな 生き延びろ」
儚く散って行く命が数多あるなかで、重く響く言葉。
故郷に帰れるのは果たして誰なのか。
考えることは放棄する。続刊を手にすればわかることだから。
リヴァイが本当に好きなんだと、改めて思った瞬間。
そして、綺麗事がどこにもない、この作品の奥深さに改めて唸る。
「エデンの東 新訳版 (4)」スタインベック (ハヤカワepi文庫)
ラスト一文を読み終えた瞬間、え!?ここで!
という思いが真っ先に過った。
もう少しだけ、彼らに寄り添いたかった。
彼らのこれからを見届けたかった。
そんな想いが自然と込み上げた読後。
一人の人間が生涯かけて描くことのできる物語は一つ。
自らの在り様は、己にしか決めることができない。
どの選択も、結局は己自身に跳ね返ってくる。
例え後悔に苛まれても、軌道修正することは可能だと、
あのヘブライ語が示している。
諦めるのも掴み取るのも自分自身。
三世代にわたる人々の人生が描かれた物語。
力強く、或は脆く、悲劇的で、或は美しい。
現実を生き抜く術は、どうやったら得ることができたのだろう?
御伽の国のアロン。
彼は最後まで現実世界を直視することができなかった。
ケイトにはもっと強かな女であってほしかったけれども。
彼女の揺らぎは老いのせい……というよりも、自らの行いの跳ね返りなのかもしれない。
父親の愛を求めたキャル。
空まわってしまった愛情の行方が哀しい。
現実を直視していたアブラ。
大人びた彼女の在り様は、迷いがなかった。
そしてリー。
彼の存在なくしては、この物語は語れない。
【ガーディアン必読 67-4/1000】
「アカサギ」沙野風結子 (ラヴァーズ文庫)
上っ面だけではその人間の本質は測れない。
弁護士の恩田と結婚詐欺師の槇。
ふたりとも過去に負った傷のせいで纏った鎧のおかげで
その真意に辿りつくまでにずいぶんと時間がかかったけれども。
抱えた本音は寂しさと後悔……なのかな。
自らの行いのせいで息子を手放すことになった恩田と、父親を求め続けて裏切られた槇。
距離感を計りつつ、自らの気持ちに気付いてみれば
独占欲と執着を剥き出しにした恩田と、
自ら鉄枷に囚われることを選んだ槇。
出逢い方は最悪だったけど、収まるべくして収まったふたりでした。
彼らにとって一回りの歳の差はいいバランスなのかも。
それにしても恩田、いけ好かない!と何度思ったことか。
個人的に好きなタイプの攻のはずなのに!
何コイツ!?という思いを抱きつつ、でも嫌いじゃないのよね、と着地してなんだか敗北感(笑)
いつか恩田を手玉に取る槇を見てみたい。
「ブラッド・メリディアン」コーマック・マッカーシー(早川書房)
繰り返される殺戮と虐殺。
それが、文明が発展していく傍らで行われていた蛮行であることに身震いがする。
剥ぎ取られる頭皮。
打ち砕かれる四肢。
狩って狩って狩りつづける日常が淡々と繰り返される。
故に、時折差し挟まれるあまりにも人間らしい描写にはっとさせられるのだが……
忘れてはいけない。
血生臭い行為を繰り返す彼らこそ、人間であることを。
異臭と砂埃と血と贓物と。
ありとあらゆる穢れの中に在って、ただ一人、その穢れに塗れることなく
異彩を放ち続けた判事。
悪と弾劾されることのなかった彼の在り様が象徴するものは何なのか。
表題の意味が重い。
淡々と綴られる事象。
訴えかけてくる感情の起伏がないのに、いや、それ故になのか?
マッカーシーの紡ぐ物語に、ただひたすら圧倒される。
「こういう世界がほかにもあるんだろうか。それともここだけなのかねぇ」
どちらであれば、尋ねた男の慰めになったのだろう?
死にゆく男が歌う讃美歌が脳裏に響く。
血の色に塗り込められての読了。
【ガーディアン必読 68/1000】