きままに読書★
読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。
「調律師」熊谷達也(文春文庫)
亡くなった妻・絵梨子を想い続ける鳴瀬に対して
「私をお姉ちゃんだと思って」と言った
由梨子の言葉に「何言ってるんだろう?この人」と漲った反発。
姉に対しても鳴瀬に対しても、そして自分に対しても失礼だ。
イラッとしながら読み続けたわけですが。
心の枷を解くのは、その枷の原因となった当人。
鳴瀬の立ち直りの様を描いた描写は見事だった。
鍵盤から立ち昇る香りから想起させられる弾む音・濁る音・嬉しい音等々。
脳内で溢れる音の世界に浸るのは心地よかった。
章ごとに綴られる、ピアノの音と鳴瀬と弾き手の関係がとてもやさしい作品だった。
ノンフィクションやドキュメントとしての震災関連本は
積極的に読んでいきたい。
だけど、物語世界に差し挟まれると、楽しく読んでいる作中から
グラグラ揺れた現実世界に引き戻されるから個人的にはまだ触れたくない。
トラウマっているわけではないけど、そんな気分になるんだなぁ、と改めて思った。
でも「書く」というスキルや感性を持っている作家さんには
是非描いていってもらいたい。というのも本音。
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「やさしいSの育て方」榎田尤利(SHY NOVELS)
年の差20歳。
優しくて感受性が豊かすぎる恋愛初心者な栄田と
ストイックな外見とは裏腹にM奴隷としてのプレイを楽しむ宮。
この二人で一体どうなることかと思ったけど、
ある種の芸術が次第に完成されていく様を目の当たりにしたような読後にうっとり。
メイクラブのセックスとセッション(プレイ)の違いを理解した上での、
快楽の追求としてのSM。
栄田によって生み出される「初めて」の感覚に翻弄される宮が艶っぽい。
自分好みのSを育てると、かつての支配者に宣言した宮。
5年後の二人が見て見たいなぁ。
とても素敵な恋人兼パートナーになっていそう。
王の言っていることがいちいち奥が深くて頷いてしまう。
打算も計算もない栄田の言葉が、いちいち宮の想定外なところが面白い。
そういうところも、惹かれる一因になったんだろうなぁ。
Mに育てられたS。
栄田がピュアなだけに、その完成系が余計に気になる。
宮の為にスキルアップしつつも、タイトル通りの優しいSに育つんだろうなぁ。
「おやすみ動物園---眠る前に見たい動物たちの寝顔」たちばなれんじ
余白部分に物語を書き込みたくなる。
穏やかな眠りの中に在る、彼らはどんな夢を見ているのかしら?
「サバンナの掃除人」と言われるハイエナも寝顔は無邪気だ。
「人の夢を喰って生きる」と言われるバクも幸せな夢を見ている。
フラミンゴは眠るときも一本足。
シロフクロウは素敵な笑顔。何がそんなに楽しいのかしら?
ゴールデンターキン。キミとは初めて出逢ったわ。
ヤギさん、歌を口ずさんでいそうね。
無防備な姿で眠る動物たち。
おやすみなさい。
また明日。
眠りは明日への活力。
彼らも皆様も、そして私も。
向かえる明日が幸せな一日でありますように。
夏休みに遊びにくる姪っ子ちゃんたち用に購入。
何故か私が癒されました。
どうしよう。
物語を書き込みしたくてたまらない(笑)
「心乱される」英田サキ (講談社X文庫ホワイトハート(BL))
終始イラッとしながら読みつづけた前半。
でも、このままそっちの方にいったら本をぶん投げるわよっ!
と思う方向には絶対に舵を切らない英田さん。
そういうところは安心して読める。
そのうちそのイラッと具合にだんだん嵌りこんでいってしまい、
気付けば彼らと一緒に心乱されつつ、
結果、主役カプそっちのけで大宮カッコイイ!!と狂喜したまま読了。
私だったら絶対に大宮を選ぶわ。←聞かれてない。
読み方色々間違ってる気がするけど気にしない。
大宮の存在なくしては成就し得なかった恋の物語。
二人が手に入れた新しい家族の形。お幸せに☆
他人の口から大事な人の耳に入って修羅場になる秘め事は、
絶対に自分の口から話すべし。
墓場まで持っていける秘め事は、自分の罪悪感からは軽々しく口にすべからず。
蛇足になっちゃいますが。
歳上の受が年下の攻に向ける「おいで」というちょっと余裕なセリフが私大好きです。
「機龍警察 自爆条項〔完全版〕」月村了衛 (ハヤカワ・ミステリワールド)
近頃の梅雨空と同じどんよりとした鈍色に覆われた、
ライザの過去と現在の虚無と共に進行する物語。
自分で選んだテロリストとしての生き方。
そこからの逸脱。
選びはしたが、望んだ道ではない。
過去の呪わしい出来事を現在を生きる者が贖わなければいけない
理不尽がやるせない。
暗鬱とした想いに呑み込まれたまま迎えた最終章。
世界が一気に震撼する。
色のない世界を染めたのは、
あまりにも鮮烈な殺戮と破壊。
ここで生きる「ジャム」のジンクス。
度重なる不運はこの日の為。
プロットのうまさに震えが走る。
そして、彼らの負った責務の重さに。
一度読み始めたら、頁を捲る手が止まらなくなる作品。
情報操作による事件の誘導。
リアルにどこかで起こっていそうで薄ら寒い。
「サイメシスの迷宮 逃亡の代償」アイダサキ (講談社タイガ)
鳥肌が立つような得体のしれなさと粘ついた悪意が、
心の底から気味が悪い。
一巻を読み終わった時よりも薄気味悪さがグレードアップしているのは、
ヤツの影がより近く、より濃くなったせい。
羽吹が再び悪意に絡め取られることがありませんように。
と、願いたいところだけど、そうはいかないんだろうなぁ。
今作で起こった事件は、本当にやりきれない。
被害者や周囲がより深く傷ついたり後悔したりする環境(社会?)は、
どうにかしていかないといけない問題なんだと思う。
頑なだった羽吹が神尾の意見に耳をかたむけ始めたのは良い兆候。
この先に待ち受けるであろう事件に立ち向かうためにも、
信頼できるバディの存在は絶対に必要。
「もしも気づかないうちに、偽物の記憶が紛れ込んでいたら?」
これ、羽吹じゃなくてもぞっとする。
錯覚することは誰だってあるだろう。
間違えて覚えていることもある。
だけど、意図的に偽の記憶を刷り込まれたら?
怖いわ~
「夜中に犬に起こった奇妙な事件」マーク・ハッドン (ハヤカワepi文庫)
彼は知りたかっただけ。
誰が犬を殺したのか。
その事件の真相を知ろうとして明るみに出てしまったのは、
秘匿された別の事柄の真実。
それは、彼を打ちのめすのに十分なものだったし、
彼の父親にとっても気の毒なものでもあった。
大人の都合で振り回されるのは子ども。
だけど、子どもも大人の事情や複雑な心情を理解することはできない。
すべてにおいて正しい人はいなくて、
みんなが抱えた事情の中で懸命に頑張っている。
(彼の母親には私はどうしたって共感はできない)
日記めいた形式で綴られる、彼の観ている世界。
大冒険をやり遂げた彼の世界がこれからどう広がっていくのか。
父親とのプロジェクトが首尾よく進行することを願う。
軽い気持ちで読み始めたら、思いのほか深い話で、色々考えさせられました。
ここからはネタバレになるので、目を通される方はご注意くださいね。
その成長がどうしても見たくて。
離婚した元旦那に引き取られた娘に会いに行った私の友だち。
ところが、娘さんは母親は亡くなったと伝えられていて……というリアル話。
元旦那は再婚を考えていた女性にも同じ嘘をついていたらしく、結局再婚自体が破談。
ついていい嘘とついちゃダメな嘘がある。
【ガーディアン必読 71/1000】
「おやすみなさい、また明日」凪良ゆう (キャラ文庫)
時間が解決してくれること。
時間をかけてもどうにもならないこと。
自分で乗り越えられること。
どう頑張っても無理なこと。
人生における困難や苦難がどのくらいのものなのかは、当人にしかわからない。
だけど、一人では果てのない不安の中に置き去りにされたような心許なさも、
在るがままの自分を受け入れ、その道程を一緒に歩んでくれる人の存在が在れば
和らぐことができる。
生きることと前向きに向き合うことができる。
彼らの選択。彼らの想い。
ゆっくりと育まれていく愛情がとても尊いと思った。
やるせなくてやさしい気持ちが詰まった良作。
この本をおススメしてくれた読友さんと、
その会話を覚えていてこの本を貸してくれた読友さんに
最大級の感謝を!
出逢えて良かった作品です。
病気を患いながらも「じいさんを見送るまで私は頑張る」と
ずっと言い続けてきたご婦人のことを思い出しました。
彼女は一度呼吸が止まってもちゃんとこの世に踏みとどまりました。
そして、寝たきりになりながらも「じいさんとツーショットで写真を撮ったのよ」と
笑った数日後に旦那様を見送り、
それから一ヶ月もしないうちに、彼女自身も眠るように旦那様を追いかけて行かれました。
奇跡のようなリアル。
「なぜ君は絶望と闘えたのか―本村洋の3300日」門田隆将(新潮文庫)
私には何も言う権利はないなぁ、と。
本書を読みながら思うところは色々色々色々あったけれども。
公の場で語れるような言葉は何一つ持ち得なかった。
ただ、彼らが絶望の中で闘い抜いた九年という長い歳月を知ること、そして考えること。
この本を手にした者の責務として、それは心に刻まないといけないと思った。
支えあって、人は強くなれる。
立ち上がることができる。
一人では太刀打ちできない理不尽に、立ち向かうことができる。
その手で人を殺めることは絶対に許されないこと。
そして、その人間を裁く側の人間が、真実を捻じ曲げようとしてはいけない。
読後にジワジワ込み上げてくる想いを吐き出したくてたまらない。
でも、毒にしかならないから飲み下す。
かわりに溢れる涙。
泣きたくなんてないのに。
「マイ・ディア・マスター」 (モノクローム・ロマンス文庫)
19世紀のロンドン。
同性との交わりが禁忌とされたその国で、アランが最後の一夜と決めたその夜に出逢った二人。
明日に光を見いだせず、自らの手で人生を終わらせることを決意したアランの再生。
そして、社会の底辺にありながらも、快活に笑うことを忘れていなかったジェムの再出発。
傷が癒えていく様、そして二人が惹かれあっていく様、が丁寧に描かれ、
危機を乗り越えた彼らの行き着いた愛の形がとても素敵。
特に、自死まで決意したアランが再生していく様が本当によかった。
それはジェムの存在があってこそ。
「お前をどうしてくれようか」に対するジェムの答えに満面の笑みで読了。
ラスト、事件の後のアランのけじめのつけ方がカッコよくて惚れ惚れ。
散りばめられた言葉遊びの部分は、
原書で読めたらもっと楽しかったんだろうなぁ。
たどたどく書かれたジェムの言葉の訳し方(?)がうまいなぁ、と思った。
時代的には交わらないけど、『モーリス』鑑賞後のイギリスが舞台のMM小説。
良いタイミングで楽しめました!