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きままに読書★

読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。

   

「津軽」太宰治(新潮文庫)



時に卑屈に、時に溌剌と。
時に皮肉に、時に素直に。
時に傲慢に、時に謙虚に。
綴られる言葉の随所に滲むのは、
故郷に対する、そしてかつてその地で交流を持った人々に対する彼の深い思い。
あたかも彼と一緒に旅をしているかのように、
「津軽」を巡る幸せな読書時間。
実際に訪れたことがあるからこそ、情景がリアルに浮かぶ。
土地の人たちのイントネーションが恋しくなる。
こんなにも魅力的に「津軽」を綴った作品は、他に知らない。
旅の終わりに心の平和を与えてくれる人の元へと帰り着く。
そこで記されたラスト一文。
「元気で行こう。絶望するな」
この余韻が刺さったまま抜けない。


卵味噌!文中に出てきた卵味噌で脳内がいっぱい(笑)
幼少時、風邪をひいたら作ってもらえたこの卵味噌がとても好きでした。
「具合悪くないけど、卵味噌作って」と今度母に可愛くお願いしてみよう。
三厩の義経寺は機会があったら行ってみたい。
合浦公園は幼少時のお散歩場所。
近所のお兄ちゃんとお兄ちゃんの犬と一緒によく行ってたなぁ。
6月に太宰を!という趣旨で選んだのがこの一冊。
最初は『斜陽』にしようと思ったんだけど、本棚になかった。あれ?手放した??
けど、GWに青森に行ったタイミングだったので、本書で正解。

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「少年はスワンを目指す」榎田尤利(リブレ)



一人の転校生が彼らの高校にやってくることから始まる物語。
王子様外見なのに口の悪い櫛形は好みドストライク。
見た目ハードボイルドでも中身はやさしい原もやっぱり好み。
タカアキが思った以上にツボ。ってか好き。
そんな彼らが自分の心情に加えて突っ込みやボケを放り込んでくる一人称の文体が
作品世界と見事にマッチングしていてとても楽しかった。
でも楽しいだけじゃないところが榎田さん。
挫折と再生。その時しか味わえない一体感。
友情から転じた恋情が生み出した苦悩と幸せ。
時の流れの中で語られていたのは、間違いなく彼らの人生。
読み応えありました。


榎田さんの生死観。そして北方の生死観。
それぞれ100冊近くも読んでくると、近しいところで一貫しているなぁ、ということが
しみじみと感じられる。
そしてその一貫性が個人的にはストンと胸に落ちてくる納得のいくもので、
「今生きている」ことを強く実感させられる。
そして、今を大事に生きよう、と思えてくる。

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「時計館の殺人」綾辻幸人 (講談社文庫)




ねっとりと絡みつく重苦しい空気。
逃げ場のない館の中で繰り返される殺人。
閉じ込められた彼らの心理に引きずられ、
リアルに気怠さと息苦しさを感じ始める頃には
「誰」が浮かんできても「何故」がわからない。
複雑に絡み合う心理。過去の柵。
狂気と妄執に偶然が加味されるとこんな顚末になるのか……
と、ゾワリとし、
「時間」という概念の確固たる様と曖昧さの両方を突きつけられる。
600頁越えだけど、一息つけるようになるまで手を止めることが出来ずに一気読みだった。
この先は完全に好みの問題なのでコメ欄へ。


鷲掴みにされて作品世界に呑み込まれていたのは、彼が語り出すまで。
そのパターンで真相解明かぁ……と、がっかりしてしまった。
原尞の『私が殺した少女』のレビューで記載したのと全く同じ理由で、個人的に興醒め。
まぁ、こは完全に私の好き嫌いだからなぁ。ホント残念。

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「Blue Rose」榎田尤利 (SHY NOVELS)



胸が軋むような痛みと、静かな優しさと。
そしてどこまでも深い哀しみに彩られた物語。
青の生い立ちと内面を知るにつれ、やるせなくなってしまう。
皆が青を守ろうと必死になっているにもかかわらず、
だんだんと不安定になって自暴自棄になっていく様が辛い。
こっちにいったら楽になれる、幸せになれると、わかっていてもそちら側を選べない。
何故なら、自分がこのままでいることを望んでいるから。
それが人の心。
世の中にはどん底まで堕ちて這い上がれない人もいる中、
立ち直った青はトオルの言う通り、運が良かった。
強く在って欲しい。


個人的には書き下ろしはなくてもよかった。
二人には「友達」ポジションを貫いて欲しかった。
じゃなかったら、そこに至るまでの想いの移り変わりをきっちり書いて欲しかった。
それにしても高瀬、イイ男だったなぁ……

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『破獄』吉村昭(新潮文庫)




四度の脱獄を実行した佐久間、大戦下から戦後へと変遷した社会の在り様、そして戦争と刑務所の係わり方。
主に三つの視点から展開していく物語。
脱獄を成し遂げた手法は彼でなければ実行できないものだし、
戦争と刑務所の在り方は突き詰めて考えたことがなかったのでとても興味深かった。
だけど、陰の主役は看守の皆様。
お疲れ様です!と、思わず背筋が伸びてしまった。
時代性もあるんだろうけど、ものすごく大変なお仕事だわ。
全ての人に当てはまるわけじゃのはわかってるけど、
北風と太陽方式が功を奏したことが嬉しい。
人間ってそういうものだと思いたい。


黒部に行った時は『高熱隧道』を。(黒部は他著者だけど『黒部の太陽』も推奨)
大和ミュージアムに行った時は『戦艦武蔵』を。
そして、網走に行こうとしている今は『破獄』を。
事前に読んで予習はバッチリ。

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「傷だらけのマセラッティ」北方謙三 (光文社文庫)



転落。あるいは、暗転。
食い止めることのできなかった負の連鎖。
たとえ、巻き込まれて降りかかった火の粉だったとしても、
その連鎖を止めるつもりがなかったことが大いなる問題だ。
とても楽しく読んでいた前半に反して、
独りよがりに過ぎる後半は作品世界からスーーッと乖離しそうになってしまった。
前半の大村は好きだったんだけどなぁ。
『マセラッティ大迷惑』というタイトルでも遜色がないと思うわ。
箱入りで輝いていたマセラッティを傷だらけにしたのは貴方です。
こっそり整備しに戻った時に置いていく甲斐性があったら見直したかもね。


マシンのセッティング描写に
『頭文字D』『湾岸ミッドナイト』あたりにドハマリしていた頃の興奮再び。
わー、読み返したくなる~~~!
私が乗りたい外車は真っ赤なカマロ。
ドライバーズシートに座ってみて、技術以前に体格的に自分には運転できない車だということを悟ったので、のっけてもらえるだけでいい。






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「心に雹の降りしきる」香納諒一(双葉文庫)




「この願いよ、天へと届け」
ああ、彼のその願いを叶えてほしい、と。
涙目になりながら一緒になって願ってしまった。
ロクデナシになりきれない、刑事が一人。
悪ぶっても非道を働いても、弱さと優しさと正義を捨てきれないが故の迷いと揺らぎ。
なんだかんだ、彼は被害者を放ってはおけない。
苛ついて他人を傷つけては、自分も傷ついている。
馬鹿だなぁ、と思いつつも、その在り様を受け入れてしまった。
ダメ人間な刑事は魅力的だし、
筋の通ったヤクザはカッコいいし。
何より失踪事件と殺人事件を巡るハイスピードな展開に呑み込まれる。
面白かった。

初読の作家さん。
こんなにワクワクしながら読める作家さんとの出逢いは久々。
こうなると、当然他の作品も気になるので、
追いかけてみようと思います♪
次に入手する本も決めてみました。楽しみー!



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「ワークデイズ」榎田尤利 (SHY NOVELS)



王子沢のターン。
包容力があって、頼り甲斐があって、やることなすことスマートで。
ホントカッコいい。
そんな王子沢が出会ったのは、神経を張りつめて、一人で踏ん張って生きてきた榊。
人に自分を理解してもらうことを放棄した風でありながら、
根っこの部分まで捻くれてない榊の生き方はどこか痛々しいものがあったけど、
王子沢のあたたかさとやさしさに包まれてだんだんと肩の力が抜けて柔らかくなっていく様にほっとする。
マンゴーの例えは秀逸だった。
気付いたら伊万里がものすごく人間らしく(?)なってて、驚く。
みんな、素敵な恋愛してるなー。

私、王子沢がとってもカッコいいと思ってるけど、これ読みながら気付いた。
王子沢の友だちポジションにはなりたいけど、恋人ポジションに納まりたいとはちっとも思ってなかった。←聞かれてない。しかもお呼びじゃない(笑)


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「オール・スマイル」榎田尤利 (SHY NOVELS)



一緒にいて二人がマイナス方向に転がっていく様はちょっと痛々しい。
相手が好きだからこそ、比較して自分の価値を下げてしまうのはなんだか苦しい。
でも、強いだけの人も、弱いだけの人もいない。
楽しいことだけが毎日続くわけでもない。逆も然り。
色々あってもそれを乗り越えて、一緒に歩んでいく。
結果、二人がちゃんと成長して、より強く想いあう。
そういう繋がりの深さは素敵だなーと思うのです。
私は王子沢が好きだけど、伊万里を選んだ吾妻。
「だから伊万里が好き」には説得力あったわ~。
紆余曲折色々あっても、結果笑っていられれば幸せだよね。

自分もどこかで煮詰まってたのかな?
なんかイロイロ考えさせられて、結果元気をもらった。
いいタイミングで読んだなーと思える作品。



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「火焔樹」北方謙三 (徳間文庫)



身体を張って戦うことのできる男には、それなりの素地がある。
ただのエリート商社マンだった男にはあんなふうにナイフもランクルも扱えない。
戦える男だったが故に、満身創痍になり、友のために手にしたナイフ。
友のための熱い想いの他に、
罪悪感に打ちひしがれた過去も彼の行動を後押しした気がする。
山の中で空疎に生きていた彼に火をつけたもの。
それは、彼を取り巻く他人。
人を変えるのは、やはり人だ。
男に引き上げられるように、少年も加速度的に成長していく。
本来であれば知る必要のなかった痛みと強さを糧にした
ちょっと悲しい成長。
それでこそ、北方。

「何でこの表紙?」と読み始めて思うわけだけど、
読み続けていくと、すごいシーンを表紙に持ってきたなぁ、と、しみじみと思ってしまった。

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