きままに読書★
読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。
「卵の緒」瀬尾まいこ(新潮文庫)
血の繋がらない母子の絆を描いた「卵の緒」
慈しみと愛情は血の繋がりに勝ると思う。
君子さんのおおらかで太陽みたいなあたかい愛情に包まれて育った育生。
彼らはまぎれもない親子であり、彼らの間の絆は揺るがない。
それは彼女が育生に対して言葉と態度でめいっぱいの「好き」を伝えてきたから。
だから育生は自分の出自を知っても揺らがない。
それは、二人の間にしっかりとした親子の絆があるから。
異母姉弟の交流と別れを書いた「7's blood」
子供が子供らしく在れない環境で生活しなければいけないのはひどく悲しい。
「一人では生きていけない」ということを理解したうえで、
聞き分けの良い子供で在りつづける七生。
それを糾弾したのが半分血の繋がった同じ子供である七子だったからこそ、
彼は心を開くことができたんだと思う。
そんな七生が傍にいてくれたからこそ、
表面上は何気ない風を装いながらも母の死から前に進めずにいた七子は
一人ではないということを認識することができたんだと思う。
別れは唐突にやってくる。
二度と会うことはないと確信を持って言える別れはひどく切ない。
「いつか」を願わずにはいられないほど。
内容(「BOOK」データベースより)
僕は捨て子だ。その証拠に母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんて言う。それでも、母さんは誰よりも僕を愛してくれる。「親子」の強く確かな絆を描く表題作。家庭の事情から、二人きりで暮らすことになった異母姉弟。初めて会う二人はぎくしゃくしていたが、やがて心を触れ合わせていく(「7’s blood」)。優しい気持ちになれる感動の作品集。
PR
「彼女がその名前を知らない鳥たち」沼田まほかる(幻冬舎文庫)
馬鹿だなーと思う。
自分を理解して、愛して慈しんでくれる人は、すぐそばにいたのに。
気付けなかったことが、十和子の陣治への想いが愛じゃなかったっていうことの証明なのかな。
陣治を一方的に罵り、誇りを持っていた仕事を捨てさせ、彼の稼いできたお金で自堕落に過ごす十和子。
でも、それでも陣治は十和子と共にいたかった。
陣治の想いはまぎれもない愛だったと思う。
時に、人の想いは、こんなにも噛み合わない。
一緒に居続けたのは十和子の弱さであり、狡さであり、それを許した陣治の孤独と淋しさ。
お金を稼ぐって大変なんだよ、人は働かないと生きていけないんだよ、と、十和子にはうっかり説教したくなりました(笑)
内容(「BOOK」データベースより)
八年前に別れた黒崎を忘れられない十和子は、淋しさから十五歳上の男・陣治と暮らし始める。下品で、貧相で、地位もお金もない陣治。彼を激しく嫌悪しながらも離れられない十和子。そんな二人の暮らしを刑事の訪問が脅かす。「黒崎が行方不明だ」と知らされた十和子は、陣治が黒崎を殺したのではないかと疑い始めるが…。衝撃の長編ミステリ。
「九月が永遠に続けば」沼田まほかる(新潮文庫)
【性的な空想はどんなに常軌を逸していても
空想である限り、あるいは他人に危害を加えない限り許される】
期待感が高すぎたのか、衝撃を受けることなくスルリと読み終わってしまった……
真実を知りたいと願いながらも、真実を口にすることのない登場人物たち。
自分にとって都合の悪いことに関して咄嗟に嘘をついてしまうのは、
人間ならではの保身だったりエゴだったりするんだろうなぁ。
何が一番印象に残ったかって、服部父!
心配が先に立っての無遠慮無神経な振る舞いで佐知子をイラつかせ、毛嫌いされていたけれど
最終的には頭にのった雪を振り払ってもらうほどに受け入れてもらっているよ(笑)
事件の渦中の当人は食事どころではないのは痛いくらいわかるけども、
食べないとダメだよ、と、食事の支度をし続けた彼の気持ちもわかる。
常軌を逸した状況に巻き込まれた佐知子たちの傍には、
彼のように日常に両足をつけた人物の存在が必要だったのかもしれない。
でも、そこに佐知子に対する恋心があったのかどうかは読み解くことはできなかった。
いや、やっぱりこれ、ものすごく的外れな感想なんだろうな(笑)
内容(「BOOK」データベースより)
高校生の一人息子の失踪にはじまり、佐知子の周囲で次々と不幸が起こる。愛人の事故死、別れた夫・雄一郎の娘の自殺。息子の行方を必死に探すうちに見え隠れしてきた、雄一郎とその後妻の忌まわしい過去が、佐知子の恐怖を増幅する。悪夢のような時間の果てに、出口はあるのか―。人の心の底まで続く深い闇、その暗さと異様な美しさをあらわに描いて読書界を震撼させたサスペンス長編。
「晩鐘・下」乃南アサ(双葉文庫)
【もう、その必要はなくなった】
子供でいられるうちは子供でいていいんだよ。
前作「風紋」での建部の言葉が脳裏をよぎる。
だからこそ、大輔と俊平の対比が痛い。
子共が子供らしく笑うことのできない世界の中で、
誰の力も借りることができないまま、生きていかなければならないことが痛ましい。
絵里と大輔の選択はあまりにも悲しすぎる。
彼らの絶望はそれほどまでに深い。
図らずもそれは、最も残酷な形での松永への制裁。
だが、誰も、そんなことは望んではいなかったはずだ。
建部と再会し、俊平と出会い、人生を立すことのできた真裕子は本当に良かったと思う。
でも、読後に残るのは強烈な胸の痛み。
内容(「BOOK」データベースより)
話題作『風紋』続編!心に癒しがたい傷を負った人々の物語。
「晩鐘」乃南アサ(双葉文庫)
【つまり、それが事件というものなのだ。
たとえ直接の被害を受けたのではないにしろ、
爆風を受け、一度でも人生の軌道が狂った人たちは、
もう二度と、元のレール上に戻ることはできない】
事件から7年。
新しい家族を得た父と姉を目の当たりいしているからこそ、
殺された母のことを思い、癒えることのない傷を抱え続ける真裕子。
無邪気な子供であることを、殺人者の親を持つという運命によって許されなかった大輔が
いたたまれない。
せめて香織が母親であることを放棄することさえしなければ、彼の運命はかわっていたのかな?
と、思わなくもないけれども、彼女にそれを望むのは無理だよね。
建部の存在が二人にとってどんな意味を持つのか。或は、二人の運命をどんなふうにかえていくのか。
良い意味での転機になることを願いつつ、下巻へ……
内容(「BOOK」データベースより)
母親を殺害された高浜真裕子は、そのとき高校二年生。心に癒しがたい傷を負った。一方、加害者の子供たち大輔と絵里は長崎の祖父母のもとに預けられ、父と母を知らずに成長する。運命が変わったあの日から七年、かけがえのない人をもぎ取られた真裕子の心の傷は癒えるのか。殺人犯の父親を持った子供たちは、その運命を受け容れることができるのか。
「不埒なインセンティブ」崎谷はるひ(ダリア文庫)
「不埒なモンタージュ」「不埒なスペクトル」「不埒なパラダイムシフト」
につづくシリーズ4作目。
このシリーズ、攻がものすごく癖があるというか、独特な感じなんだけど、
イケメンでオネエ言葉の日比谷サン、よかったわー。
(ちなみにスペクトルとパラダイムシフトの直隆も好き☆)
スマートで包容力があって物事を割り切れている大人の男と思いきや、
実はちょっとわがままであまえたがり。
和典に本気になるにつれ、物分かりの良すぎる彼の態度に不安になっていくわけだけど、
実は日比谷の自業自得。
苦悩するさまがなんだか可愛い(笑)
日比谷が好きという想いを抱きつづけ、彼のそばにずっといるために
終始一貫していた和典の態度はものすごく好ましいな。
この二人にはずっとお互いがお互いにあまえてあまやかしてあげてほしいと思います☆
「only you,only 」麻生ミツ晃(海王社コミックス)
【下手に白黒をつけるより
グレーでいた方が効率がいいからだ】
なんだろ。
すごく良い話だった……
じわーっと心に広がる感情は、せつなくてやさしい。
真木の表情がすごくイイ。
好きの気持ちも切ないの気持ちも悲しいの気持ちも。
すごくリアルに伝わってくる。
最初から何も望んでいなくて。
差し出された手を払って、離れて、諦めようとして。
でも、やっぱり須藤じゃないとダメって気づいて。
「欲しい」ってちゃんということができてよかった。
真木と須藤がぶつかって、悩んで、乗り越えたことって、
たぶん、現実でも起こりうることで、
納得できる部分もあるからこそ、読んでて余計に胸が痛くなったけど、
本当に「間に合ってよかった」。
まぁ、親御さんのこととか須藤の身体のこととか、
単純に良かっただけじゃない部分もたくさんあるんだけど、
そういうのをふたりでちゃんと乗り越えていく未来が見える結末で良かった。
うん。
繰り返しだけど、良い話だったー。
「風紋 上・下」乃南アサ(双葉文庫)
【犯人?何のこと?
私は、お母さんに生きていてほしいと思ってるだけ】
殺した者。殺された者。
だが、事件はそれだけでは終わらない。
どちらの家族もまた、禍々しいまでの嵐の中に投げ出される。
マスコミ、ご近所、第三者。
自らの生活に関係のない人たちにとっては、事件はいずれ過ぎ去っていく事象であり、
結局は他人事だ。
だが、家族は終わることのない苦しみを抱えたまま、この先の人生を歩んでいかなければならない。
被害者側家族の心理も、加害者側家族の心理も生々しく胸に迫ってくる。
時に息苦しさを感じるほどに。
母の死をきっかけに父の浮気、母の不貞という家族の秘密を暴かれた高浜家。
今にもバラバラに壊れてしまいそうな危うい状態にあったはずなのに、
少しずつ「家族」という絆を取り戻していく。
そのきっかけが母の死であったことが、ひどく悲しい。
仕事を奪われ、家族が離れ離れになり、これまでの日常をすべて失った松永家。
それでも生きていかなければならない、という香織の言葉通り、
彼らは疲れ果てながらも懸命に日々を繋いでいく。
「殺人者の子供」として一生生きていかなければならない幼い子供たちが、やはり、悲しい。
人は、絶対に誰かを殺してはいけないんだと思う。
内容紹介
「犯罪被害者に限定して言えば、事件の加害者となった人間以外はすべて、被害者になってしまうのではないかと、私はそんなふうに考えている。そして、その爆風とも言える影響が、果たしてどこまで広がるものか、どのように人の人生を狂わすものかを考えたかった」-乃南アサ
「鬼やらい 上・下」小松エメル(ポプラ文庫)
【他人を幸せにできる者だけが、己も幸せにできるのだ】
再び喜蔵の元に現れた小春。
前巻ですこしは丸くなったかと思った喜蔵は相変わらずな様子。
人間・妖怪含め、なんだかんだ周りのみんなに気にかけてもらえるってことは、
幸せなことなんだよ、と喜蔵に言いたい。
それでも己を顧みて一歩でも半歩でも前に踏み出ようと決意したところまではいいけれども、
この期に及んで天邪鬼っぷりを発揮して硯の精になんてことを!!
ものすごく気になりつつ下巻へ……
語られる硯の精の過去。
心優しく聡明だった少年との出会いと別れ。
この時係わった人たちが本当に良い人たちばかりで、胸にジンときた。
多門に振り回されながらも、己の心と向き合い、少しずつ頑なさを解いていく喜蔵。
なんだかんだ喜蔵が心配で手を貸してしまう小春は、
やはり喜蔵にとっては福の神なんだと思う。
それでも、彼はこちら側のものではなく、あちら側に帰っていく者。
賑やかな毎日が続くことを期待しそうになるけれども、それはかなわない。
だが、喜蔵はひとりではない。上下巻で対になっている表紙がとても素敵。
内容(「BOOK」データベースより)
厄介な「居候」が百鬼夜行に帰って以降―再会した妹に「共に暮らそう」と言い出せず、むなしく日々を過ごす喜蔵は、多聞と名乗る男と馴染みになる。優雅な声音と物腰で女性を虜にする多聞だが、喜蔵が営む古道具屋で買うのは、なぜか付喪神の宿る品ばかり。同じ頃「女性だけを狙う妖怪が出没する」との噂が浅草を賑わせており…。文明開化の東京で、凸凹コンビが妖怪沙汰を万事解決?大好評を博した『一鬼夜行』シリーズ第二幕前編。
内容(「BOOK」データベースより)
謎の男・多聞に、硯の精たち付喪神が宿る古道具を売ってしまった喜蔵。多聞の正体は、体中にある目で他人を操ることができる妖怪・百目鬼だった。帰ってきた小春から硯の精の悲しくも数奇な過去を聞いた喜蔵は、己のふがいなさを痛感する。二人は付喪神たちを取り戻すべく、「もののけ道」を通って多聞の屋敷に乗り込むことに…。文明開花の東京で、凸凹コンビが繰り広げる人情妖怪譚第二幕、完結編。
「一鬼夜行」小松エメル(ポプラ文庫)
【死んだらそれまでだ。楽になどなれぬ。
生きているからこそ辛くもなるが、その逆もある】
百鬼夜行の行列から落ちてはぐれた鬼の小春と、
そんな小春と厭々同居することになった鬼よりも怖い面の喜蔵。
家族や友達に裏切られ、人間など信じぬ、と、
周囲との係わりを疎んじながら生きる喜蔵の気持ちが、
人懐っこい小春との交流を通して少しずつほぐれていく様が心地よい。
小春も過去に様々な事情を抱えていろんな思いを飲み込んで生きてきたけれども、
なんだかんだ周囲に愛されてる妖怪だなーと思うのは、彼の心根がやさしいからなんだろうなぁ。
夜行の途中の妖怪たちがはぐれた小春を探して迎えに来る場面がすごく好き。
気持ちがあたたかくなるお話でした。
内容(「BOOK」データベースより)
江戸幕府が瓦解して五年。強面で人間嫌い、周囲からも恐れられている若商人・喜蔵の家の庭に、ある夜、不思議な力を持つ小生意気な少年・小春が落ちてきた。自らを「百鬼夜行からはぐれた鬼だ」と主張する小春といやいや同居する羽目になった喜蔵は、次々と起こる妖怪沙汰に悩まされることに―。あさのあつこ、後藤竜二両選考委員の高評価を得たジャイブ小説大賞受賞作、文庫オリジナルで登場。