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きままに読書★

読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。

   

「グラスホッパー」 伊坂幸太郎(角川文庫)



【世の中は善悪じゃないんだから】

妻を殺した「非、合法的」な組織に復讐目的で潜入した、ごく平均的な一般男子である元教師と、
自殺させたり、ナイフだったり、押したりと、それぞれ手法での殺しを生業とする殺し屋たちの物語。

殺しというからにはリアルに想像するとメッチャ凄惨なシーンが描かれていたりするわけなんだけど…
不思議と伊坂さんの文章はそれを「凄惨」と感じない。
そこ、納得したら倫理的にダメでしょ!という事柄を、
でも、そうなんだよねー、と、頷きたくなってしまう。
相変わらず伊坂さんの言葉には不思議な説得力があると思う。
それは、日々のなかで「なんかそれ、納得いかなくね?」「そうじゃないよね?」と
腑に落ちない部分を、スッパリ切ってくれるからなのかなぁ……と、個人的には思ってます。

復讐を成就しえなかった鈴木。
だからこそ、彼には明日がある。
「生きてるみたいに生きる」
あたりまえのようで、ひどく困難な言葉を、私自身にも贈りたい。

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「銃」 中村文則(河出文庫)



【拳銃のない私は無意味であり、私は拳銃に激しい愛情を向けていた。
 が、拳銃は私には冷たかった。】

自分自身を演じることで、周囲とのコミュニケーションを図ってきたニシカワ。
生きることの意味を見出すことができないまま、行き過ぎる時の中で、
偶然手にした拳銃。
その拳銃に依存することで、活気づく世界。
だが、それはまやかしだ。
思い込みと妄想はあらぬ方へと走り出し、
ギリギリのところで踏みとどまったかと思ったのだけれども。

安堵しかけたのは束の間。
最後の最後で突き落とされる。
そして、彼同様に私もつぶやくのだ。
「これは、なしだ」

待ち受ける未来は、破滅でしかない。


内容(「BOOK」データベースより)
雨が降りしきる河原で大学生の西川が出会った動かなくなっていた男、その傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はやがて、「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが…。TVで流れる事件のニュース、突然の刑事の訪問―次第に追いつめられて行く中、西川が下した決断とは?新潮新人賞を受賞した衝撃のデビュー作。単行本未収録小説「火」を併録。


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「水の時計」 初野晴(角川文庫)



【奇跡を祈るということは自分の力を放棄したときにすることだ。
 たとえどんな困難な状況に陥っても、そんな無責任なことはするまいと思っていた】

物語全体を通してのイメージは、蒼い月の光。
表紙にインスパイアされる部分が過分にあるかもしれないけど、
脳裏に浮かぶのは、とても綺麗な蒼い色の世界。

だが、その世界で紡がれる物語を生きる彼らの中で、
幸せだと言い切れる者は果たしていたのだろうか?
「人の幸せは、その本人にしかわからない」
全くもってその通りで、皆が幸せと不幸せとを抱えている。
そうして生きていくのが人生……なのかな?

自らの臓器を、移植を必要としている人々に分け与えつづける葉月。
その臓器を秘密裏に運び続け、髪の色が変わるほどの苛烈な状況に在りながらも、
世界にひとりぼっちではないと気づけた昴。
幸福の王子をモチーフに紡がれる物語の結末は、切なくも、やさしい。

内容(「BOOK」データベースより)
医学的に脳死と診断されながら、月明かりの夜に限り、特殊な装置を使って言葉を話すことのできる少女・葉月。生きることも死ぬこともできない、残酷すぎる運命に囚われた彼女が望んだのは、自らの臓器を、移植を必要としている人々に分け与えることだった―。透明感あふれる筆致で生と死の狭間を描いた、ファンタジックな寓話ミステリ。第二十二回横溝正史ミステリ大賞受賞作。

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「あしたのきみはここにいない」 山本小鉄子(幻冬舎コミックス)



【抱かれることの意味をちゃんと分かってる?】

大好きな作品の一つ。
原作が崎谷はるひさん。
胸にキュンとくるセリフがちりばめられていて、二人のやり取りが切なくて。
何度も何度も読み返したこの本は、友達から借りた時に
「この話好き好き大好き!」と主張したら「そんなに好きならあげるよ」と、いただいたものです。(笑)

放課後の社会科準備室で過ごす二人きりの秘密の時間。
けれども、過去の苦い経験と、教師と生徒という立場から、
一線を引いた関係から決して踏み込もうとはしない史誓。
距離を置かれても、避けられても、
自分の気持ちを押し付けるわけではなく、ただ、諦めることをしなかった朝陽。

想いは一過性のもので、卒業したら何もかも忘れるに違いないと、悲観的な史誓に、
朝陽が体当たりの告白をして、心情を吐露しあう、このあたりの件がホント好き。
「せっかく逃がしてあげてたのに」
史誓が自ら引いていた一線を踏み越えた瞬間。

想いを伝え合い、身体を繋いだそのあとは、
今までのクールさはどこへやら、束縛体質の本質をさらけ出し,
甘やかしまくりの史誓が微笑ましい。(笑)
そしてなんだかんだたくましい朝陽がとってもかわいいのです。


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『Nights』 ヨネダコウ(BBC DELUXE)



【…元になんか戻れなくていいよ】

表題作「Nights」のほか「感情スペクトル」「リプライ」の三作を収録。

やっぱヨネダさん、好きだわー。
三作品どれもいいけど、個人的にはこの中では「リプライ」が一押し。

無理して必死にがんばっているときって、自分を顧みる余裕がなくて、
実はギリギリのところに立っていることにきづかなかったりする。
そのことに気づいてくれたり、労ってくれたり……
弱ってるときにそんな言葉をかけてもらえたら、泣きたくなるほどうれしいだろうなー。

関のまっすぐな不器用さと、高見の控えめだけど、絶対的な押しの強さと。
日々の営みの中で悩んだり迷ったりしながら、
ちょっとずつ距離を縮めていく二人の関係が好き。

巻末描き下ろし。
額にハンコ……許されるなら、いつか誰かにやってみたい。(笑)

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『SOSの猿』 伊坂幸太郎(中公文庫)



【すべてが悪だという人間も存在しなければ、すべてが善なる人間もいない】

前半の進みの悪さとは比較にならないくらい、一気に読み進んだ後半。
視点や時間軸が飛躍しながら展開されていくが故の混乱が収束されていく様はお見事。
結末までを踏まえたうえで二度読みすると、より深く楽しめるんだろうなぁ、と思いつつ、
初読で感想書いてます。

ラストの一文がとても好き。
「ふいに、別の自分が生れるかのような予感を覚えた私は、
 ゆらゆらと落下する毛に向かい、変われ!とささやいた」

ここではない、どこかへ。
今の自分ではない、自分へ。
現実にもがきながら切ないほどの思いを抱いたことは、誰にでもあると思う。
それが顕著なのが「思春期」……なのかな?
「自分の存在意義とは何ぞや?」「死とは何か?」
覚えのありすぎるクエスチョン。
存在意義をみつけられずにぐるぐる考え続けて、それが苦しくて。
どうしようもなくてどうしていいかわからなくて……そんな思考にはまった時のことをはっきりと覚えています。
でも、ある日突き抜けたんだよね。
ま、いっかーって。(笑)
そんなあたしの座右の銘は「いきあたりばっちり」。
なかなか素敵な言葉だと思っています。

内容(「BOOK」データベースより)
三百億円の損害を出した株の誤発注事件を調べる男と、ひきこもりを悪魔秡いで治そうとする男。奮闘する二人の男のあいだを孫悟空が自在に飛び回り、問いを投げかける。「本当に悪いのは誰?」はてさて、答えを知るのは猿か悪魔か?そもそも答えは存在するの?面白くて考えさせられる、伊坂エンターテインメントの集大成。

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『恋』 小池真理子(新潮文庫)





【確かに、あれは誰もが落ちる恋には違いなかったが、健康的な恋ではなかった】

もし、あの時彼らに出会わjなければ?

出会ってしまった後の仮説には意味はない。
何故なら、具現化してしまった現実を、なかったことにすることはできないのだから。

健康的ではない、歪な関係の中にあった三人の前に現れた、一人の青年。
彼の指摘していることはとても真っ当で、その真っ当さ故に、彼は命を失うことになったんだと思う。

理解するに及ばない片瀬夫妻の関係。
でも、理解し得ないからこそ、彼らの織り成す物語に引き込まれていく。
そんな彼らのあり方を肯定的にみなすあたしの立場は布美子寄りで、
だからこそ、彼の真っ当な指摘にはっとさせられる。
それは、理解し得ないといいつつ、
三人の歪なあり方に魅了されていることに気付かされる瞬間でもある。
つまりは、作者が生み出した世界にどっぷり引きこまれているのだ。

妙義山・軽井沢・雲場池等々。
大好きな場所が随所にちりばめられているのも、個人的にはこの本に入れ込んでしまった理由。
情景がとてもリアルに目に浮かび、また足を向けたくなってしまう。

それにしても……
彼女の紡ぐ日本語はやはりとても綺麗だと思う。

内容(「BOOK」データベースより)
1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした…。全編を覆う官能と虚無感。その奥底に漂う静謐な熱情を綴り、小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。

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『女衒夜話』 もんでんあきこ(クィーンズコミックス)






【いつか あんたが 俺を殺ってくれるんだろうと思ってたよ】

何回読んでも、やっぱりこの話好き。
というか。
話もさることながら、あたしは彼女の描く男の人のカラダ……というか、
にじみ出る男の色気が本当に大好きです。
彼女の本は少女コミック・レディコミ・BLに至るまで読んでるけど。
主観で話の良し悪しはあるけど。
でも、彼女の描く男子のカラダは無条件でカッコイイと思っています。大好き。
いや、カラダ大絶賛はさておき。(笑)

一人の女を守れる男になりたがっていた女衒と
「後悔」という感情を知ってしまった殺し屋と
時代の波に振りまわされながらも逞しく生きる女たちの物語。
読後は重たい感じの何かがずしーん、と残るけど、
戦後と言う時代を必死に生きた人たちの話は、ぐっと胸に来るものがあります。
自分の選択した生き方に、誰も後悔していないんだろうなー、と思うと、なんだか切ない……
キリオと裕也の関係が、またいいんだよなー。
キリオの「生きててよかった」という言葉。
裕也の「生きていくれ」という言葉。
誰もが模索した生きることの意味を、残された命に託したい。

内容説明(背表紙より)
終戦直後の東京――。女をかどわかして売り飛ばすことで生計を立てているキリオと、場末のバーを営む殺し屋の裕也。闇を這いずるように生きる二人の男は、ある女との出会いで運命の歯車をくるわせていった…。

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『出口のない海』 横山秀夫(講談社文庫)






【たったひとつ、それだけが気がかりだから、何度でも言う
     幸せになってほしい。幸せになると約束してほしい】

第二次世界大戦の終戦前に展開された極秘作戦、人間魚雷「回天」。
目を逸らしてはいけない現実。
こんな兵器を作ったのは………人間。

宣告された死。
逃げることの許されない現実。
「生きること」の意味。「死ぬこと」の意味。
感情を持った人間であるが故に生ずる迷い。苦悩。
痛いくらい、リアルに伝わってくるのは、彼らが特別な人たちではなく、
ありふれた風景の中にいる、普通の若者だからなんだと思う。
特別な人間ではない、どこにでもいる若者だからこそ、彼らの苦悩や決断に、涙が止まらなくなる。
時代が違えば、彼らは自分であったかもしれないのだ。

時代も、置かれた状況も違うけれども、あたしも自分の人生と真っ向から向き合って
大切に生きていきたいなーと、と改めて思いました。

内容(「BOOK」データベースより)
人間魚雷「回天」。発射と同時に死を約束される極秘作戦が、第二次世界大戦の終戦前に展開されていた。ヒジの故障のために、期待された大学野球を棒に振った甲子園優勝投手・並木浩二は、なぜ、みずから回天への搭乗を決意したのか。命の重みとは、青春の哀しみとは―。ベストセラー作家が描く戦争青春小説。

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『何もかも憂鬱な夜に』 中村文則(集英社文庫)






【世界に何の意味もなかったとしても、
 人間はその意味を、自分で作り出すことができる】

この世界にいることが、どれほど息苦しいことに感じたとしても。
それでも人は、この世界で命をつないでいかなければならない。
いや。
命をつないでいくことができる、と、続けるべきか。

何故なら。

世界には、すばらしいものや綺麗なものがたくさんあるから。
太古からつながれてきた命の連鎖は、「今の自分のためだけにある」ものだから。

そう思えば、自分の命が、なにか、とても価値のあるものに思えてくるような気がする。
無駄にしていい命も、無駄にしていい時間も、ない。
だから生きる。懸命に。
何かに抗いながら。
何かを模索しながら。

この作品を読んだ後だからこそ。
「共に生きましょう」という作者の言葉が、やさしく、いたわるように、胸に響いた。

内容(「BOOK」データベースより)
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している―。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。

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