きままに読書★
読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。
「窓の灯とおく」一穂ミチ(ルチル文庫)
出会ってから恋情に進むまでのふたりの距離感の描写が絶妙。
偽らず、繕わず、ありのままの自分を受け入れてくれる存在。
築にとってはそれが新で、新にとっては築だった。
描かれているのは
「ここに帰り着きさえすれ大丈夫だと思える場所」を得ることができた奇跡。
激しい激情が描かれているわけではないけれども、
溢れる想いに涙が滲みました。
静かに営まれる生活の中、互いに係わることで少しずつ変わっていく二人。
それもたぶん、良い方に。
新のために自分の気持ちを諦めようとした築。
築のために囁かれる、一日更新の告白の言葉。
恋愛っていいな、と、素直に思った物語でした。
すっぱりとした築の物言いがとても好き。
「今しかない」と言い続けている彼らの未来を願います。
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「銀河英雄伝説2 野望編」田中芳樹(創元SF文庫)
【宇宙を手に入れること。
そのためにどんなことでもやらなくてはならないのだった】
最後まで守り通された誓い。
永遠に失ってしまった半身。
責めるべきは己自身。
悔いる資格は彼にはない。
友の死に報いるために。そして、孤独と渇きを埋めるために。
彼は戦いつづけるしかないのだ。
例え宇宙を手に入れたとしても、ラインハルトに真の安息の日は訪れない。永遠に。
心に巣食う果てのない空虚。
敵を欲する飢えを味方にもまき散らさないでほしい、と切に想うのは、
先の展開を知っているからなのでしょうね。
一方のヤンもまた、意に沿わない戦いを強いられることとなる。
何のための国家か。何のための権力か。
問わずにはいられない。
何度も読んで何度も泣いて。
展開は知りすぎているわけで、今回はもう泣かない!と思って読んでいたのに。
結局泣きすぎてパンダ目になっていました(笑)
内容(「BOOK」データベースより)
自由惑星同盟でクーデター勃発。叛徒鎮圧の命令がヤンに下るが、首都を制圧したその首謀者は、彼が篤く信頼を寄せていた人物だった。一方帝国でも、皇帝崩御以降激化する貴族間の権力闘争の渦中に身を置くラインハルトに、新たな試練が課されようとしていた。不敗の魔術師と常勝の天才、二人の英雄の決断が、銀河史に新たな波瀾を呼ぶ。巻措く能わざるスペース・オペラ、第二巻。
「銀河英雄伝説 1 黎明編」田中芳樹(創元SF文庫)
【人は自分だけの星をつかむべきなのだ。
たとえどのような兇星であっても……】
遠く、さらに遠く!
かつて、宇宙を目指して地球を飛び立った持つ人たちは、
飽くなき闘争が繰り広げられる未来を果たして想像しただろうか?
国の現状を正しく認識できていない政治家主導の戦闘で、命を落とす理不尽。
救える命を全力で救い続けた結果、
辞めたくて仕方のなかった軍を辞める時期を逸してしまったヤン。
打倒すべき己にとっての害悪を唐突に失し、
それでも果てのない高みを目指して戦いつづけるラインハルト。
輝かしい業績を重ねる彼の足元に差し込む一筋の影。
これは、“常勝の天才”と“不敗の魔術師”が奏でる銀河の物語。
そして数多の人たちの数奇な人生を描く物語でもある。
一番最初は高校時代に夢中になって読んだ本です。
予備校の授業をサボって作者のサイン会にいったくらい、傾倒していました。
先の展開を知っているからこそ、大事に読んでいこうと思います。
また彼らの軌跡を追えるのが楽しみ。
内容(「BOOK」データベースより)
銀河系に一大王朝を築きあげた帝国と、民主主義を掲げる自由惑星同盟が繰り広げる飽くなき闘争のなか、若き帝国の将“常勝の天才”ラインハルト・フォン・ローエングラムと、同盟が誇る不世出の軍略家“不敗の魔術師”ヤン・ウェンリーは相まみえた。この二人の智将の邂逅が、のちに銀河系の命運を大きく揺るがすことになる。日本SF史に名を刻む壮大な宇宙叙事詩、星雲賞受賞作。
「街の灯ひとつ」一穂ミチ(ルチル文庫)
【それは一途なんて呼べる代物じゃない、昏い熱だった】
ゆっくりと穏やかに流れ込んでくる感情に静かに揺さぶられ続け、
結局泣かされてしまいました。
「初鹿野のいない世界なら、何を持ってたって意味がない」
初鹿野をずっと想いつづけた片食の気持ちが一途で、深くて、いじらしくて。
そして、たまらなく愛おしい。
「責任は俺がとるんだよ」
流されるわけではなく、絆されるわけでもなく。
片食ときちんと向き合い、理解した上で受け入れた初鹿野の気持ちがやっぱり愛おしい。
穏やかで深い、片食の情愛。
だけどそこには静かな熱がある。
その熱で、初鹿野の欠けていた感情が修復されているような感じがすることが嬉しい。
とても素敵な物語でした。
山下久美子の「微笑みをもう一度」が脳内ヘビロテ。
「街の灯がともる」という歌詞部分とタイトルがリンクしたんだろうなぁ。
片食と初鹿野の物語、もう少し先まで読んでみたかったわ。
内容(「BOOK」データベースより)
気の進まない同窓会で、記憶にない同級生と会った初鹿野柑。翌朝、酔いつぶれて正体のないままその男と一線を越えたことを知って愕然とする。「ずっと好きでした」と土下座する男は、実は、二度と会いたくなかった相手―名字も容姿も様変わりして現れた―片喰鉄之助だった。あまりの事態に「気持ち悪い」と気後れしてしまう初鹿野だが…。
「ペンギンの憂鬱」アンドレイ・クルコフ(新潮社)
自らの生活が誰かの監視下に置かれている薄気味の悪さ。
仕事をしていたはずが、「殺人」という犯罪に荷担していた事実。
そして誰かの意のままに命が扱われる理不尽。
日記のように綴られる日常生活の中に、
他者の思惑が知らず浸食している恐怖。
だが、語られるペンギンと少女の存在が、日常を日常たらしめ、
禍々しい雰囲気を感じさせない。
だからこそ、ラストの驚愕度合いは半端なかった。
これぞ、不条理。
うっそー、と、心の中で叫びつつ、彼らのその後を思うが、
同じような日常の延長しか思い描けない。
願わくば、彼らに穏やかな未来を。
ペンギンのミーシャがとても物悲しく可愛らしい。
ミーシャの憂鬱はヴィクトルの憂鬱。
やりきれないけど、おもしろかった!
内容(「BOOK」データベースより)
恋人に去られた孤独なヴィクトルは、憂鬱症のペンギンと暮らす売れない小説家。生活のために新聞の死亡記事を書く仕事を始めたが、そのうちまだ生きている大物政治家や財界人や軍人たちの「追悼記事」をあらかじめ書いておく仕事を頼まれ、やがてその大物たちが次々に死んでいく。舞台はソ連崩壊後の新生国家ウクライナの首都キエフ。ヴィクトルの身辺にも不穏な影がちらつく。そしてペンギンの運命は…。欧米各国で翻訳され絶大な賞賛と人気を得た、不条理で物語にみちた長編小説。
「その女アレックス」文春文庫(ピエール・ルメートル)
監禁された女の物語は、殺人を犯す女の物語へと変容し、
孤独で虐げられた女の物哀しい人生の物語に帰結する。
と同時に、これは綿密に練り上げられた復讐の物語でもある。
檻の中に裸で閉じ込められ、命の火が消えかけながらも、
生きることに執着した彼女の理由がとても哀しい。
そして女として、とても悔しい。
砂漠に埋もれた砂を探すような警察官たちの地道な捜査には、
ひたすら拳を握り続けたわけですが、
最後の最後であ~!と声を上げてしまった理由。
彼らには復習に加担するのではなく、司法できっちりと決着をつけてほしかった。
そうあるべき立場の人たちなのだから。
とはいえ、最後までドキドキハラハラしながら一気に読ませる構成はお見事でした。
内容(「BOOK」データベースより)
おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。
「最後の晩ごはん ふるさとだし巻卵」椹野 道流(角川文庫)
ありのままの自分を受け入れてくれる場所があって、
自分を無条件に信じてくれる人たちがいれば、
たとえ、この瞬間がどんなに苦しくても、明日に想いを繋ぐことができる。
濡れ衣をかけられて人生をめちゃくちゃにされ、
行くあてもなく、頼る人もいなく、暴力に晒されながら命を諦めかけた海里が夏神に救われ、
そんな海里が現実に絶望した幽霊を救う。
夏神のもとで料理人になることを決意した海里。
自分に何ができるのか。何をしたいのか。
気付いた時からやり直しがきくのが人生なんだと思っています。
ご飯は美味しそうだし、掛け合いは小気味よいしで、楽しく読み切った物語でした。
内容(「BOOK」データベースより)
若手イケメン俳優の五十嵐海里は、ねつ造スキャンダルで活動休止に追い込まれてしまう。全てを失い、郷里の神戸に戻るが、家族の助けも借りられず…。行くあてもなく絶望する中、彼は定食屋の夏神留二に拾われる。夏神の定食屋「ばんめし屋」は、夜に開店し、始発が走る頃に閉店する不思議な店。そこで働くことになった海里だが、とんでもない客が現れて…。幽霊すらも常連客!?美味しく切なくほっこりと、「ばんめし屋」開店!
「槐」月村了衛(光文社)
【愛する人を守るための戦い。
そのためには、まず自分が生き残らねばならない。】
表紙と中表紙の綺麗さと、突如として繰り広げられる虐殺現場の凄惨さのギャップに、
まずぎょっとした。
絶体絶命の状況に恐怖に戦く公一たちと同じように息を呑みながら頁を捲り、
「槐」というタイトルの意味が明確にされたとき、物語に対する見方が変わる。
そこからさらに加速がついて一気読み。
自分本位だった少年少女たちが次第に互いのために全力を傾けるようになり、
子どもたちを守るために、大人もまた捨て身の覚悟で戦いに挑む。
恐怖と緊張を強いられた一夜の間に展開された壮絶なバトル。
亡くした命もあったけれども。
傷を抱え込まずに成長の跡が見て取れた子供たちの姿に安堵した。
さすが月村了衛氏。
一気に読ませるスピード感に乗せられるまま走り切り、どっと疲れた読後でした。
ラスト一文、すごくよかった!
内容(「BOOK」データベースより)
弓原公一が部長を務める水楢中学校野外活動部は、夏休み恒例のキャンプに出かけた。しかしその夜、キャンプ場は武装した半グレ集団・関帝連合に占拠されてしまう。彼らの狙いは場内のどこかに隠された四十億円―振り込め詐欺で騙し取ったものだ。関帝連合内部の派閥争いもあり、現金回収を急ぐリーダー・溝淵はキャンプ場の宿泊客を皆殺しにし、公一たちは囚われの身に…。そのとき、何者かが関帝連合に逆襲を始めた!圧倒的不利な状況で、罪なき少年少女は生き残ることができるのか!?
「チョコストロベリーバニラ」彩景でりこ(バンブーコミックス)
拾の自覚のない残酷さによって形成される歪んだ関係。
ミネの戸惑いと反発。
タケの苛立ちと開き直り。
どれもこれも「好き」の気持ちが根底にあってのゆらぎ。
一人が二人に、二人が三人になれば、空気感は変わるし、関係性だって微妙に変化する。
好きな人を手に入れるために受け入れなければならない状況に
乱された感情を咀嚼して呑みこんで。
着地したところに作り上げられたのは、見事なトライアングル。
当事者全員が納得して受け入れた歪みは、歪みではなくなる。
そこに在るのはこれしかない、と、妙に納得させられた愛の形。
うまいなー、と思いました。
拾が何故三人だとダメなのか、ということを理解した上で三人での関係を肯定する流れと、
ミネとタケのそれぞれに対する感情が変化していく様が綺麗に描かれていたのがとてもよかった。
「一瞬の風になれ 第三部」佐藤多佳子(講談社文庫)
【人生は、世界は、リレーそのものだな。
バトンを渡して、人とつながっていける。】
青空の下を全力で駆け抜けたような爽快感。
読後に胸を満たすのはそんな感情です。
新二がいたから陸上を続けることができた連。
連がいたからより速く走ることができた新二。
親友でライバル。そしてかけがえのない仲間。
一緒に走ることが楽しくて。とても楽しくて。
だからこそ、負けたくはないし、相手より前を走っていたい。
勝負に無頓着だった連が「勝ちたい」という意欲を貪欲に示すようになっていく様子に、
そして、常に速さを希求し続けた新二に、頁を捲る私の方もわくわくした。
彼らはどこまで風に近づくことができるのだろう?と。
途中彼らと一緒に泣きながらも、楽しく読み切った小説でした。
全力で何かに打ち込むことの素晴らしさを改めて思いました。
あのひたむきさ、私の中にもまだあるかな?
内容(「BOOK」データベースより)
いよいよ始まる。最後の学年、最後の戦いが。100m、県2位の連と4位の俺。「問題児」でもある新人生も加わった。部長として短距離走者として、春高初の400mリレーでのインターハイ出場を目指す。「1本、1本、走るだけだ。全力で」。最高の走りで、最高のバトンをしよう―。白熱の完結編。