きままに読書★
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カテゴリー「小説」の記事一覧
- 2016.04.24 「怒り 下巻」吉田修一(中公文庫)
- 2016.04.22 「怒り 上巻」吉田修一(中公文庫)
- 2016.04.19 「雷の季節の終わりに」恒川光太郎(角川ホラー文庫)
- 2016.04.13 「無伴奏」小池真理子(新潮文庫)
- 2016.04.10 「冬の狼 挑戦シリーズ2」北方謙三(集英社文庫)
- 2016.04.07 「老人と海」ヘミングウェイ(新潮文庫)
- 2016.04.02 「危険な夏 挑戦シリーズ1」北方謙三 (集英社文庫)
- 2016.03.31 「ポケットに名言を」寺山修司(角川文庫)
- 2016.03.30 「僕は穴の空いた服を着て。」菅野彰(河出書房新社)
- 2016.03.22 「牙」北方謙三(集英社文庫)
「怒り 下巻」吉田修一(中公文庫)
不透明な過去。
明かされない真実。
そこからに生れる疑心暗鬼。
人を信じつづけることがいかに苦しいことなのか。
突きつけられる。
信じきれずに疑ってしまったからこそ、明かされた真実がとても哀しい。
やりきれないのは、犯人の身勝手さの被害を被った人たちが、
事件後にも数多くいるということだ。
知らなければ防げたかもしれない。
けれども「彼」は知ってしまった。故に起こってしまった惨劇。
一つの殺人事件が、事件に関係のない人たちの生活をも揺さぶった。
得たものもあれば、失くしたものもある。
負った傷も後悔もすべてを抱えて、人は、生きていく。
【以下ネタバレ有です】
Amazonのレビューでこの作品の評価が真っ二つに分かれているのは納得。
明確に明かされることのなかった「怒」の理由。
でも、断片的に綴られた事象から、推測することはできる。
読み手に委ねられる部分が過分にあって、
はっきりとした謎解きを求めると、消化不良になっちゃうかな?
信じたいからこそ、
信じきれない自分を責めて揺らぎ続けた彼らの幸せをひたすらに願う読了後でした。
内容(「BOOK」データベースより)
山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!
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「怒り 上巻」吉田修一(中公文庫)
二人が殺害された現場に残された「怒」という血文字。
凄惨な殺人事件の現場から始まる物語。
だが、上巻を読み終えた時点で、その動機は皆目見当もつかないし、
犯人の姿も浮かんではこない。
綴られるのは、千葉、東京、そして沖縄で生活をする者たちの、
日々の営み。
当たり前の日常の中で、彼らは出逢い、生活を共にしていく。
その姿があまりにも自然で、そのまま時が続くことを願いたくなるけれども。
読み進める程に暗い影を投げかけてくるのは、三人の男たちの見えない過去。
彼らに係る男も女も、皆、一様に傷ついている。
彼らはその過去を受け入れるのか、打ちのめされるのか。
優馬の母との決別が哀しかった。
後から悔いるから後悔。
伝えたい言葉は伝えたいうちに。
手が届かないところに逝ってしまった人には、何も伝えられない。
内容(「BOOK」データベースより)
若い夫婦が自宅で惨殺され、現場には「怒」という血文字が残されていた。犯人は山神一也、二十七歳と判明するが、その行方は杳として知れず捜査は難航していた。そして事件から一年後の夏―。房総の港町で働く槇洋平・愛子親子、大手企業に勤めるゲイの藤田優馬、沖縄の離島で母と暮らす小宮山泉の前に、身元不詳の三人の男が現れた。
「雷の季節の終わりに」恒川光太郎(角川ホラー文庫)
そこに在る己の存在は確かに感じられるのに。
自らの立つその場所の、なんと寄る辺のないことか。
その里に在りながら、常に感じていた疎外感。
その理由がやるせない。
大切な人たちの消失。
死者の語らう真実。
その者の犯した罪に気付いた瞬間、彼は追われる身となり果てる。
どこまでが偶発的な出来事で、
どこまでが決められていた事だったのか。
此方と彼方。
交錯する過去と現在。
移り変わる視点は次第に近づいてゆき、彼らは再び巡り逢う。
そしてあまりにもあっけなくすれ違っていく。
雷の季節の終わりを迎えた少年は、この先、どんな四季を生きるのだろうか?
ホラー的要素は私的にはあまり感じられなくて、
むしろ幻想的と言った方がしっくりきます。
因習にとらわれてきた里の中に在っては、
すべてが運命(さだめ)であり、理(ことわり)である、と、
感覚的に納得しているあたり、独創的な著者の描く世界に引き込まれているのだと思いました。
異界をゆらゆらと漂う感覚が癖になりそうな物語。
内容(「BOOK」データベースより)
雷の季節に起こることは、誰にもわかりはしない―。地図にも載っていない隠れ里「穏」で暮らす少年・賢也には、ある秘密があった―。異界の渡り鳥、外界との境界を守る闇番、不死身の怪物・トバムネキなどが跋扈する壮大で叙情的な世界観と、静謐で透明感のある筆致で、読者を“ここではないどこか”へ連れ去る鬼才・恒川光太郎、入魂の長編ホラーファンタジー。文庫化にあたり新たに1章を加筆した完全版。
「無伴奏」小池真理子(新潮文庫)
美しい言葉で綴られる、とても残酷でとても哀しい恋の話。
私の小池真理子の原点。
何にでもなれる、どこにでもいける。
そんな、可能性を無限に秘めた多感な時期を共に過ごした四人の男女。
彼らの織り成す、大人びて見せるものの、幼さの拭えない、歪で、背徳的な四角形。
けれども、手を触れて壊してしまうことが躊躇われる何かが感じられるのはどうしてだろう?
それぞれに向けられた想いは、真摯で、ずるくて、だけどあまりにも必死で。
何処かで破綻することがわかっているからこそ、泣きたくなるほどに狂おしい。
「きみは人生が好きかい?」
自らの問いかけに対する渉の答えが哀しい。
「何故大学に行くのか?」
いくつかあった理由のひとつが、自分が生きている意味を教えてもらえると思っていたから。
「行ったところで何かが何かが変わるわけでもない」
あたりまえだ。
生きている意味は教えてもらえるわけじゃなくて、自分でみつけるもの。
変えてもらうんじゃなくて自ら変わるもの。
入学したところで何も変わらないことにものすごく落胆した後、
そんなふうに思えてものすごく楽になった学生時代。
と、あまりにも馴染んだ地名や店名に揺さぶられて、青臭い時代を思い出してみました(笑)
内容(「BOOK」データベースより)
その果てに待つものを知らず、私はあなたを求めた―。多感な響子は偶然に出会った渉に強く惹かれるが、相手の不可解な態度に翻弄される。渉に影のように寄り添う友人の祐之介と、その恋人エマ。彼らの共有する秘密の匂いが響子を苛み、不安を孕んで漂う四角形のような関係は、遂に悲劇へと疾走しはじめる。濃密な性の気配、甘美なまでの死の予感。『恋』『欲望』へと連なる傑作ロマン。
「冬の狼 挑戦シリーズ2」北方謙三(集英社文庫)
あれから三年。
男たちはそれぞれの場所で戦っていた。
彼らが再びひとつの場所に集った時、膠着していた事態が動く。
三年の間過ごした環境は、彼ら自身を変えた。
だが、彼らの魂は変わらない。
その心に抱いた誇りも。
始めてしまったからには、最後まで闘い抜くしかない。
困難に立ち向かい、意志を貫き通そうとする彼らの傍らで、
待つだけだった高樹も動いた。
ペルーで本物の戦士となった竜一は、
日本での戦いが窮屈そうに感じる程、大きな男になって帰ってきた。
彼の立ち回り方が本当にかっこいい。
そして竜一は再び、己の身の丈に相応しい戦場へ。
「馬鹿がひとり、かえってきたわ」
諦めと愛しさとが感じられる朝子の台詞がすごく好き。
竜一の誇りの旗で、涙を一滴拭った栄の行為も好き。
そしてアサキータ。
男は命がけで戦っていた。
そして、女もまた、それぞれの持ち場で戦っているのだ。
内容(「BOOK」データベースより)
「あたしの誇りは竜よ。あたしの狼、冬に向かって走る狼」女は唇を重ねる。水野竜一が戻ってきた。2年間、ペルーでゲリラとなり、殺人術と大いなる誇りを身につけて。だが、かつて生命を賭けて共に闘った深江は行方不明だった。深江を探す竜一の前に、銃弾の暴力が立ちふさがる。仲間が死ぬ。老警部「おいぼれ犬」の姿がチラつく。巨大な、姿を見せぬ敵に、ゲリラ戦士竜一がついに牙をむいた。
「老人と海」ヘミングウェイ(新潮文庫)
この物語では、海はどこまでも傍観者だ。
干渉することなく、他人顔でただそこに在るだけ。
果てなくつづく海の上でたった独り、
巨大な魚と命がけの死闘を繰り広げた老人、サンチャゴ。
永遠に続くかに思われた死闘を淡々と描き続ける描写に、思わず拳に力が入る。
その魚との戦いに、老人は勝利した。
だが、物語はそこでは終わらない。
迫るくる脅威は別なところにあった。
結局彼は、骨だけになった大きな魚と共に、傷だらけになって帰港する。
満身創痍の身体を横たえるサンチャゴ。
だが、彼の人生に「負け」の概念はない。
ライオンの夢を見る老人は、明日もまた、海へと足を運ぶのだろう。
寄り添う少年の存在が終始救いだった。
10代の頃は、物語に含まれる重みも深みも面白さも、多分ほとんど理解できなかった。
だが、あれから歳を重ねて読み終えた今、胸にぐっとくる想いがある。
サンチャゴの寂寞と力強さがひしひしと伝わってくる。
著者の他の作品も是非読んでみたいと、そう、思わせてくれる作品でした。
内容(「BOOK」データベースより)
キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。4日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく…。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。
「危険な夏 挑戦シリーズ1」北方謙三 (集英社文庫)
【時にゃ月。時にゃ太陽。
そういうもんだぜ。だから相棒なんだよ】
己のすべてを賭けた大いなる戦いに挑もうと集った男が四人。
殴り合いがきっかけで、その男たちの中に加わった竜一。
心を動かされるのは巨額の金ではなく、一滴の血。
その血で男の誇りと友情が買える。
戦うのは己のためでもあり、友のためでもある。
一切の無駄を削ぎ落とした文章が、過不足なく物語を語る。
風前の灯となった命。
ギリギリで繋ぎとめた明日。
戦場を掻い潜り、戦いに勝利した男たち。
だが、払った犠牲も大きかった。
男が女のために選んだ台詞がたまらなくいい。
「全部、何もかもが夢だったんだ」
彼女にとっては、それがベストだ。
男たちの戦いはこれからも続く。
権力と金力に目が濁った悪に挑んだ五人。
それぞれが貫いた漢気がとてもカッコいい。
高樹のスタンスもぶれてなくていい。
次巻がとても楽しみです。
内容(「BOOK」データベースより)
「金に尻尾を振って集まってくる連中じゃ、勤まりそうもない仕事なんだよ」バイト学生の水野竜一に深江は言った。自室の壁にペルーの地図を貼り、いつかその地にはばたきたいと夢みている竜一は、そのひとことで心を決めた。20億円もの金に目もくれない男たちが、自らの肉体と知恵を武器に巨大企業を追いつめてゆく。竜一21歳、暑くて危険な夏が始まった。
「ポケットに名言を」寺山修司(角川文庫)
誰にでも心に抱えた自分なりの名言集や、大切にしていきたい言葉があるだろう。
時として人生に大きな影響を与えうる言葉は、武器にも癒しにもなる。
故に、著者の言葉に大きく頷くのである。
曰く。
「人と人とに出会いがあるように、人と言葉とのあいだにも、ふしぎな出会いがある」
著者自身の言葉も含め、ジャンルを跨いだ多様な視点から集められたこの名言集は、
目次にあるように「言葉を友人に持った」著者ならでは。
どの言葉が印象深かったのかは人それぞれ。
語り合うのも面白いだろう。
この先も更なる出会いを求めて、私は書物の頁を捲り続ける。
かつての私も、心に留まった言葉を書き溜めていたノートがあったなぁ、と、
懐かしく思い出したりもしました。
この本の中で印象深かった言葉。
「しかしもう一度やりなおすとしたら、私は躊躇なく同じ道にとびこむだろう」
←現在の自分の肯定。
「喧嘩のいいところは仲直りができることね」←なんか素敵だな、と思った。
「ところで、この世でいちばん大きなタマは?地球である」←なんかすっごい納得した(笑)
おともだちからの素敵なプレゼント本です。ありがとうございます!
内容(「BOOK」データベースより)
世に名言、格言集の類は数多いけれど、本書ほど型破りな名言集は珍しいのではないか。歌謡曲あり、懐かしい映画のセリフあり、かと思うと、サルトル、サン=テグジュペリ、マルクス…。しかつめらしく覚えたり、読むのではなく、Tシャツでも着るようにもっと気軽に名言を自分のものにしよう!思い出にすぎない言葉が、ときには世界全部の重さと釣り合うことがあるのだから。異彩を放つ、真にユニークな書。
「僕は穴の空いた服を着て。」菅野彰(河出書房新社)
乱暴に括ってしまえば、自分に係ること以外はすべて「他人事」。
自分には関係のないことだと、無責任な言葉を並べ立てることができる。
そこに胸の疼きはない。
だけど、係わった当事者は、いつまでもその事象に囚われる。
苦しくて、哀しくて。
その場所からどこにも進むことが出来なくて。
途方に暮れたまま、懸命に今日をやり過ごす。
ああ、だけど、手を差し伸べてくれる「誰か」の存在は、こんなにも誰かを救う。
読み始めから最後まで、胸が痛くて仕方なかった。
でもこれは、暗闇に進む物語ではない。
長い長いトンネルから抜ける物語。
生きるということは、こんなにも大変で、こんなにも素晴らしい。
個人的には何度も反芻したい物語。
家族。友達。恋人。
身近な人たちが差し伸べてくれる手の、なんとあたたかいことか。
以下ネタバレすぎる台詞の抜粋です。
「どうして子どもの父親に選んでくれたの?」
「あなたが好きだから。好きな人のこどもが欲しいの」
幸也にとって、これ以上の言葉はなかったと思う。
智美ちゃん、ホント良い子だよ。
角館に行きたくなりました。行って、桜を眺めたい。
内容(「BOOK」データベースより)
幼い頃亡くなった父への思いに囚われ続ける幸也は、恋人と新しい「家族」を作ることに怯え、混乱していた。その父への暗い思いに重なるような姉の死の謎を追ううちに、幸也がたどり着いた真相は―。
「牙」北方謙三(集英社文庫)
【牙をなくしちゃなんねぇ。
いざという時にゃ、牙をむけるのが、男ってもんだ】
牙。
男が決して失くしてはいけないもの。
常に鋭く研いでおかなければいけないもの。
容赦なくいたぶられ、毀れそうな心が最後に縋った一本の糸。
祖父が遺してくれた戦う術。それが、牙。
「行きな」
それは、解放の合図。
解き放たれた獣が咆哮し、獲物に跳びかかる。
それは当たり前の日常との決別。
それでも、譲れないものがあった。
守らなければいけないものがあった。
自らの手でつけた決着。
たとえ、生まれた国を捨てることになったとしても、彼に後悔はない。
垣間見られる祖父の愛情が切ない。
向かった地で、彼と語れる木があるといい。
渇いた心の、せめてものやすらぎに。
ひどく人間臭い高樹に妙な違和感を覚えつつ、
親近感を抱くという不思議。
矢野と在沢の存在はありがたかった。
内容(「BOOK」データベースより)
ふとしたことで事件に巻き込まれた石本一幸、19歳。謎の女が残したシガレットケース。その中には巨悪の証拠を示すフィルムが!そして祖父が襲われ、死んだ。いまはのきわに残した「牙をなくしちゃなんねえ。いざという時にゃ、牙をむけるのが、男ってもんだ」の言葉を胸に、迫りくる組織の魔手、陰にひそむ大物に、一幸の復讐が始まる。