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きままに読書★

読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。

   

「逃れの街」北方謙三(集英社文庫)



【過ぎたことを考えたくはなかった。
 終わってしまったことからは、なにもはじまらない】

鮮烈な刹那。
いつか、終わりの来る明日。
けれども、いまはただ、この雪の中で今日をやり過ごしたい。
小さなぬくもりと共に。
当たり前の日常を繰り返していくはずだった。
ふいに訪れた同郷の男。
恋に落ちたと思っていた女。
そこから繰り出す歯車。
一度押されてしまった烙印。
それが誤りだったとしても。
一度噛み違えた歯車は、どこまでも噛み合わずにギシギシと軋んでいく。
幸二と過ごすことで、次第に子供らしさを取り戻していくヒロシ。
だが、二人が共にいられる時間は刻々と失われていく。
雪で覆われた軽井沢。
一切の言い訳をしなかった男の終着点。


ラストの黒木があまりにも粋すぎて、くぅぅぅ、と、痺れました。
なんだろう?
痺れすぎて上手い言葉が出てきません(笑)
あまりにもイロイロ読みすぎて、再読ではない北方現代物って、相当久しぶりに読みましたが。
キタコレ!!という北方作品に出逢いました。




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「晴天の迷いクジラ」窪美澄(新潮文庫)



【絶対に死ぬな。生きてるだけでいいんだ】

生きるって、こういうことだよなーと、思いました。
迷わずにまっすぐ道を歩いていける人も、もちろんいるだろうけど。
傷ついて、悩んで、後悔して。
いろんなことを抱えて苦しんで、一人じゃ息ができなくなって。
誰かに支えられて、それで、漸く前に進むことができる人もいる。
自分は「死んじゃおうか」と思っても、
近しい人が練炭を持っていたら、必死で止める。
そう思った瞬間から、「生きる」ことを考えている。
どこか壊れた家族。
他人の方が労わりあえる歪さが、哀しい。
だけど、寄り添える誰かがいてくれるだけで幸せなのだと。
そう思いました。

とりあえず、ガンバレ!と。
闘っていもがいているみんなにエールを送りたくなりました。
そして、自分にも(笑)

内容(「BOOK」データベースより)

デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた―。苛烈な生と、その果ての希望を鮮やかに描き出す長編。山田風太郎賞受賞作。


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「神々の山嶺 下」夢枕獏(集英社文庫)



【人には権利がある。
 何を奪われようが、何を失おうが、最後にただ一つ残された権利だ。
 それは、自分の選んだ生き方に、命を賭けてもいいという権利である】

聳え立つ山をひたすら睨みつづけて生きた羽生。
その羽生に魂ごと引き寄せられた深町。
拘り続けた前人未到の単独登頂。
拘ることは生きることと同意。
そんな厳しさをひしひしと感じた。
最も過酷な状況下での8000メートルの氷壁。
深町の叫び。
「それが、ビカール・サンだ」
その言葉で深町は救われ、私は納得できました。
物語はそこでは終わらない。
すべてが収束したかに思えた後での出逢いに震え、
涙が止まらなくなってしまった。
ありったけの心で想え。
その言葉のとおり、想い続けた羽生が示した生き様。
最初から諦めていては何も敵わないと、改めて教えられた気がする。

羽生の生き様がほんとうにたまらない。
気になるのに、怖くて一気に読めませんでした。でもこの本に出会えてよかった。
ここからは余談ですが……
私の数少ない登山経験の一つが槍ヶ岳です。
せっかく上った槍のてっぺんで、もやもやの濃霧に見舞われて何も見えなかった残念な私。
でも、翌日晴れ渡った山頂の景色を見て、この景色を見るために、ここまで来たんだなぁとジワリと思いました。
いつもの地上にいたら絶対に見ることの敵わない、澄んだ空気の中での美しい景色。
貴重な体験でした。


内容(「BOOK」データベースより)

その男、羽生丈二。伝説の単独登攀者にして、死なせたパートナーへの罪障感に苦しむ男。羽生が目指しているのは、前人未到のエヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂だった。生物の生存を許さぬ8000メートルを越える高所での吐息も凍る登攀が開始される。人はなぜ、山に攀るのか?永遠のテーマに、いま答えが提示される。柴田錬三郎賞に輝いた山岳小説の新たなる古典。

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「神々の山嶺 上」夢枕獏(集英社文庫)



【この地上にただひとつしかない場所。地の頂。そこにこだわりたい】

翼をもたない人間は、大空に憧れ、鋼鉄の翼を作った。
空には自力では舞い上がれない。
けれども、聳え立つその山の頂には、自らの足で登り立つことができる。
選ばれし、ごく一握りの人間にのみ立つことを許されたその場所は、
この地上のどこよりも天に近い場所。
マロリーのエヴェレスト初登頂の是非の謎。
山に魂ごと取り込まれたかのような羽生の人生。
そして、マロリーの謎と羽生に惹かれる深町。
あたかも、高度数千メートルの山に立っているかのような臨場感あふれる描写に
ひたすらのめり込む様に頁を捲り続けて上巻終了。
先の展開がまったくわからないので、本当にドキドキしています。


長谷と羽生。
日常では接点のない二人が「山」を介してこれほど密につながっているというのが
なんだか不思議。
そして、二人の在り方がとてもいたたまれない。


内容(「BOOK」データベースより)

カトマンドゥの裏街でカメラマン・深町は古いコダックを手に入れる。そのカメラはジョージ・マロリーがエヴェレスト初登頂に成功したかどうか、という登攀史上最大の謎を解く可能性を秘めていた。カメラの過去を追って、深町はその男と邂逅する。羽生丈二。伝説の孤高の単独登攀者。羽生がカトマンドゥで目指すものは?柴田錬三郎賞に輝いた山岳小説の新たなる古典。

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「怒りの葡萄 下」スタインベック(新潮文庫)



【あたしたちのすることは、どんなことでも
 生きていくことを目指しているんだと思うだよ】

旅の途中で物語は幕を閉じる。
とてつもない虚脱感を抱えたまま、彼らの明日に想いを馳せる。
散り散りになった家族。
満たされることのない空腹。
拭い取ることのできない疲労感。
それでも、明日に命を繋ぐために彼らは進みつづける。
これは、搾取され続ける現実に翻弄されながらも、
明日を生きることを諦めなかった人々の物語。
泣き言ばかり言っていた娘の示した慈愛と、
最後まで揺らぐことのなかったジョード家の母親の強さがとても印象的でした。
優しくはない大地に立つ彼らの明日への力の源は怒り。
ならば私は、その怒りが凪ぐ日が訪れることを、願いたい。

淡々としていながらも、力強い情景描写に圧倒されました。
そして『あたしたちのすることは、どんなことでも
生きていくことを目指しているんだと思うだよ』
この母の言葉にひたすら頷くしかありませんでした。


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「ラブレス」桜木紫乃(新潮文庫)



【どこへ向かうも風のなすまま。
 からりと明るく次の場所へ向かい、
 あっさりと昨日を捨てる。捨てた昨日を惜しんだりしない】


人には自分ひとりだけの人生の物語がある。
何を幸せと感じ、何を不幸せと感じるのか。
それは、その人生を生ききった当人にしかわからない。
これは、三世代にわたる女たちの人生を描いた物語。
詰りあっても、嫌悪しても、時に血の繋がりが枷となっても。
「家族」という絆を断ち切ることのなかった彼女たちの物語。
喜びも裏切りも、じっと耐えてきた苦しみも大きな虚無も。
すべてを抱きしめて慈しむ、大きな愛。
そんな愛を静かに胸の内に抱いていた百合江の最期に向けた
彼の囁きに、読後しばらく涙が止まらなかった。
「生ききった」のだと思う。
彼女は彼女の人生を。

同じく「生ききった」のであろう、ハギの孤独が胸に刺ささった。
教えられた文字で書きつづった言葉がとても哀しい。
理恵と過ごせた時間が、彼女の光になってくれているといい。



内容(「BOOK」データベースより)

謎の位牌を握りしめて、百合江は死の床についていた―。彼女の生涯はまさに波乱万丈だった。道東の開拓村で極貧の家に育ち、中学卒業と同時に奉公に出されるが、やがては旅芸人一座に飛び込んだ。一方、妹の里実は地元に残り、理容師の道を歩み始める…。流転する百合江と堅実な妹の60年に及ぶ絆を軸にして、姉妹の母や娘たちを含む女三世代の凄絶な人生を描いた圧倒的長編小説。

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「檻」北方謙三(集英社文庫)




【昔、一緒に生きた。
 同じものに賭け、同じ夢を見て生きた。】

気づかなければ良かったのに。
自分が檻の中にいることに。
だけど彼は、気づいてしまった。
自分の牙はまだ抜けていないことを。
そして再び出会ってしまった。
同じ夢を見て生きた、かつての戦友と。
友の抱えた厄介事を、見て見ぬふりはできなかった。
眠った獣は既に目覚めている。
望んで修羅に飛び込みたがっている自分を、彼は知っている。
思い出されるのは、自分を導いてくれた男の背中。
滝野と高安の人生に絶大な影響を残した桜井生き様がぐっとくる。
そして彼は走る。
狭い檻から解き放たれるために。
あまりにも愚直。だからこそ、哀しくて愛おしい。

高樹と対峙した幸江が、寂しかったけど、静かに強くて、
とても印象的でした。
初読の時は覚えなかった感情。

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「武王の門 下」北方謙三(新潮文庫)



【夢をあわせ持つことができる。
 同じ夢をみることができる。
 そういう相手に火とは障害で出会うことがあるのでしょうか】

失った片翼。
それでも、立ち止まる暇はない。
それが、夢を掲げた者の宿命。
長い年月をかけて思い描いてきた九州の統一。
京ではなく、異国に目を向け、争いのない国を目指して続けてきた戦い。
届きかけた夢。
だけど、届かなかった。
結局、見果てぬ夢で終わってしまったけど、
全力でやりきった感が強くて、寂寞ではなく、
労いの想いの方が強い読後でした。
闘うために必要なものは、人であり、兵糧であり、銭である。
裏方から支える人たちをも魅力的に描くのが、さすが北方!と思います。
「夢は潰えても、夢は残る。心の中に」
北方歴史浪漫にどっぷり浸らせていただきました!

もう一度、九州に行きたくなりました。
行って、彼らの戦いに想いを馳せてみたい。
そして、北方は何を書いても北方だと再認識しました。
水滸伝読みかえしたい!

内容(「BOOK」データベースより)

懐良は肥後の名将・菊池武光と結び、悲願の九州統一を果たした。そして大宰府を征西府の拠点とし、朝鮮半島の高麗や中国大陸の明と接触することで、全く新しい独立国家の建設を夢見る。しかし、足利幕府から九州探題に任ぜられた今川了俊は、懐良の野望を打ち崩すべく、執拗に軍を進めた―。二十数年にわたる男の夢と友情のドラマを、ダイナミックに描いた一大叙事詩の完結。

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「武王の門 上」北方謙三(新潮文庫)



【ここを生きよ、ということでございますか。いまこの時だけ、生きよと】

描いた夢がある。
そして、託した夢がある。
時は南北朝。
共に夢を見、その夢を現実のものとするために、奔走する男たち。
そこに私欲はない。
目指すは新しい日本。
それを成しうるだけのものを備えた男、
即ち、後醍醐天皇の皇子・懐良に、全力でついていく。
自らの命を投げ打ってでも、守りたいものは、彼の命であり、彼らの夢である。
どの物語でも、北方の生死観に触れると、心が震える。
生きるために生きる。
そのことを痛切に感じさせられるから。
夢を語ることのできる友と、懐良はどこまで駆けつづけることができるのか。
ドキドキしながら次巻へ。

北方浪漫健在!
この時代を駆けた男たちの在り方が鮮烈すぎて、動悸が収まりません。
そして北方の語り口調、馴染みすぎてものすごくしっくりきます(笑)




内容(「BOOK」データベースより)

鎌倉幕府を倒し、後醍醐天皇が敷いた建武の新政も、北朝を戴く足利尊氏に追われ、わずか三年で潰えた。しかし、吉野に逃れて南朝を開いた天皇は、京の奪回を試み、各地で反撃を開始する。天皇の皇子・懐良は、全権を持つ征西大将軍として、忽那島の戦を皮切りに、九州征討と統一をめざす。懐良の胸中にある統一後の壮大な『夢』とは―。新しい視点と文体で描く、著者初の歴史長編。

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「アンチェルの蝶」遠田潤子(光文社文庫)



切望した新世界。
自らの手でつかみ取ろうとした未来。
血の繋がった親からの理不尽な仕打ちに黙って耐えながら、
中学生の彼らはただ、懸命に生きようとしただけなのに。
彼らの親は、人ですらなかった。
子供は生まれてくる環境を選ぶことができない。
そのことが、とてもやるせない。
悪夢のような現実を終わらせるために失ったものは、
心穏やかな日々。希望に満ちた未来。
けれども、彼らは彼女を守り、彼女は彼らを守り続けた。
そして、瓦解する「最高の日」。
どうして?と、叫ばずにはいられませんでした。
「アンチェルの蝶」
美しい響きを持つタイトルの意味を理解した時、鳥肌が立ちました。


「人にソフトクリームを買ってもらったのははじめてだ」
40歳を過ぎた藤太の言葉に、涙が溢れそうになりました。
私が与えてもらったたくさんのものを。
姪っ子ちゃんと甥っ子ちゃんに、今度は私が惜しむことなくプレゼントしてあげたい。


内容(「BOOK」データベースより)

大阪の港町で居酒屋を経営する藤太の元へ、中学の同級生・秋雄が少女ほづみを連れてきた。奇妙な共同生活の中で次第に心を通わせる二人だったが、藤太には、ほづみの母親・いづみに関する二十五年前の陰惨な記憶があった。少女の来訪をきっかけに、過去と現在の哀しい「真実」が明らかにされていく―。絶望と希望の間で懸命に生きる人間を描く、感動の群像劇。

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