きままに読書★
読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。
カテゴリー「海外小説」の記事一覧
- 2015.12.16 「香水 ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント(文春文庫)
- 2015.11.29 「すべての美しい馬」コーマック・マッカーシー(ハヤカワepi文庫)
- 2015.11.15 「ヴェネツィアに死す」トーマス・マン(光文社古典新訳文庫)
- 2015.11.07 「怒りの葡萄 上」スタインベック(新潮文庫)
- 2015.11.02 「悲しみよこんにちは」フランソワーズ・サガン(新潮文庫)
- 2015.10.24 「ムーン・パレス」ポール・オースター(新潮文庫)
- 2015.10.16 「幼年期の終わり」アーサー・C・クラーク(ハヤカワ文庫)
- 2015.10.08 「華氏451度」レイ・ブラッドベリ(ハヤカワ文庫)
- 2015.10.01 「蠅の王」ウィリアム・ゴールディング(新潮文庫)
- 2015.09.26 「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティ(ハヤカワ文庫)
「香水 ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント(文春文庫)
彼の生み出す香りからは、色彩豊かな情景までもが
鮮明に脳裏に浮かんでくる。
人の感情すら自在に操作することのできる、香り。
そんな香りを意のままに生み出すことのできる、
稀有な才能を持って生まれたグルヌイユ。
香りに取りつかれ、香りを追い求め、そして香りに殉じた男の物語。
奇怪極まるその生き様は、醜悪で崇高で純粋で変質的。
視覚的に思い描けば、物語の最期は悪夢としか言いようがない。
だが、それすら、彼自身が望んだ結末。
思えば、彼の人生において、
彼自身の意に沿わぬことは何ひとつ起こってはいないのだ。
悪酔いしそうな物語。
革命当時のフランスの情景がしばらく脳裏から離れそうにありません。
内容(「BOOK」データベースより)
18世紀のパリ。孤児のグルヌイユは生まれながらに図抜けた嗅覚を与えられていた。真の闇夜でさえ匂いで自在に歩める。異才はやがて香水調合師としてパリ中を陶然とさせる。さらなる芳香を求めた男は、ある日、処女の体臭に我を忘れる。この匂いをわがものに…欲望のほむらが燃えあがる。稀代の“匂いの魔術師”をめぐる大奇譚。
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「すべての美しい馬」コーマック・マッカーシー(ハヤカワepi文庫)
【勇気とは変わらぬ心のことである。
臆病者が真っ先に裏切るのは自分自身だ。
ほかのすべての裏切りは、そのあとでやってくるのだ】
クールで大人びた16歳の少年は、
故郷を捨て、自らの意志で選んだ人生を歩み始めた瞬間から、
少年の殻を脱ぎ捨て、大人へと変容していく。
彼は誰よりも公平で、誰よりもまっすぐだった。
アメリカからメキシコへ。
自らの夢を追いかけ、頼る者のいない土地へ友と愛馬と共に移り渡った彼は、
理不尽に見舞われ、恋に落ち、刑務所に入り、そして、正義と出逢う。
男たちの荒々しさ。彼女との一夜。
耳元で感じ取れるかのような、馬の吐息の熱さと嘶き。
心理描写を排し、淡々と語られる文体から、
時に凛とした美しさを孕んだような情景が見事に伝わってくる。
そして、彼の「きたるべき世界」へと想いを馳せるのだ。
トルティーヤがとても食べたくなりました。
すべての人に受け入れられるような文体ではないのだろうけど、
個人的には妙にクセになる作家さんです。
噛みしめれば噛みしめる程、味が出てくるんだろうなぁ。
内容(「BOOK」データベースより)
1949年。祖父が死に、愛する牧場が人手に渡ることを知った16歳のジョン・グレイディ・コールは、自分の人生を選びとるために親友ロリンズと愛馬とともにメキシコへ越境した。この荒々しい土地でなら、牧場で馬とともに生きていくことができると考えたのだ。途中で年下の少年を一人、道連れに加え、三人は予想だにしない運命の渦中へと踏みこんでいく。至高の恋と苛烈な暴力を鮮烈に描き出す永遠のアメリカ青春小説の傑作。
「ヴェネツィアに死す」トーマス・マン(光文社古典新訳文庫)
【なるほど、私を待っていたのは海と浜辺ではなかったのだ。
おまえがいる限り、私はここにとどまろう!】
水の都、ヴェネツィア。
その街の美しさと醜悪さを描く描写。
比類ない美しさを備えた少年の描写。
そして、孤高の老作家の内面の描写。
情景がとてつもなく鮮明に脳裏に浮かび、
心理がひしひしと押し迫る描写にくらくらとするような眩暈を覚えながら読了。
身も蓋もなく言ってしまえば、老作家はストーカー。
少年にしてみれば、見知らぬ老人につけ回される気味の悪い話である。
が、少年と老作家の視線が交わった瞬間の描写はあまりにも美しく、
鳥肌が立つかと思いました。
一度は逃げ出そうとした街に再び戻らざるを得なかった老作家。
多分、その瞬間から彼の運命は決まっていたのだろう。
彼を奈落の底へと呑みこんだのは少年の存在か、或は、芸術という概念そのものなのか。
私には計り知れない。
内容(「BOOK」データベースより)
高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて…。
「怒りの葡萄 上」スタインベック(新潮文庫)
【大丈夫かどうかって問題じゃないよ。
やるつもりがあるかどうかの問題だよ】
いつの間にか呑まれてしまった理不尽という名の河の流れに押し流されるかのように、
西へ向かう人々。
その河の水は流される人々の汗と血と涙と、
そして彼らの失った大地の土とで混濁している。
運命に抗う術を持たぬ彼らは、土地を奪われ、家を壊され、
その理不尽に憤りながらも、流されるしかない。
向かったその先に幸いがあると、己自身に言い聞かせて。
「残された者は家族だけ」
母親の言葉が胸に刺さる。
その家族ですら、過酷な現実に奪われていく。
1930年代アメリカ。
彼らの抱いた縋るのような思いを踏みにじらないでほしい願いながらも、
最後の一文に息を呑む。
そして、次巻へ。
気力と体力がそれなりに充実していないと、
文章に圧倒されて読み進めることがキツイな、と思いました。
初版が1939年。
90年近くの時を経ても尚、これだけのエネルギーを感じさせる物語。
一呼吸おいて、次巻に備えます。
「悲しみよこんにちは」フランソワーズ・サガン(新潮文庫)
【酔っていると、人はほんとうのことを言うが、誰もそれを信じない。】
無邪気で罪深い人たちの物語。
読後、時間が経つほどに、引き攣るような想いがジワジワとこみあげてきて、
共感と反発を覚えた彼らの想いが、流れ込んでくる。
若さ故の傲慢な思い上がり。
思い込みの正しさ。
各々が抱いた自己愛と独占欲。
そんな感情に起因する行動からは、思いやりと想像力が欠落していて、
互いを傷つけずにはいられない。
起こるべくして起こった悲劇。
それでも彼らの時間は前へと進みつづける。
17歳のセシルにとってこのひと夏の出来事が、
あたかも、美しい蝶への化身を遂げるための
甘くて苦い蜜であったかのようで、ゾクリとしました。
悲しみよ、こんにちは。
少女時代の終幕。
流れるような美しい文書がとても素敵。
何度も噛みしめたくなるような言葉と情景が、そこには広がっていました。
哀しいわけじゃないけど、何故か涙が零れそうです。
内容(「BOOK」データベースより)
セシルはもうすぐ18歳。プレイボーイ肌の父レイモン、その恋人エルザと、南仏の海辺の別荘でヴァカンスを過ごすことになる。そこで大学生のシリルとの恋も芽生えるが、父のもうひとりのガールフレンドであるアンヌが合流。父が彼女との再婚に走りはじめたことを察知したセシルは、葛藤の末にある計画を思い立つ…。20世紀仏文学界が生んだ少女小説の聖典、半世紀を経て新訳成る。
「ムーン・パレス」ポール・オースター(新潮文庫)
【変化、というものも僕は考えている。
何ごとも、いつでも、突然、永久に変わってしまいうるのだということを。】
人の営みは、すべて繋がっている。
過去があってこその現在。
親があってこその子。
そして構築される歴史。
だが、人と人との絆は必ずしも永遠に継続しうるものではない。
交わり、親密に絡み合い、ふいに断ち切れる。
それは、死であり、別れであり、自然な消滅でもある。
出逢いと別れの繰り返し。
けれども、たぶん、それが人生。
絶望に呑みこまれ、周りの人たちの善意によって人生を立て直し、
そして再びすべてを失ったかに見えるマーコだけれども。
彼の得たものは確実に彼のこの先の人生の糧となる。
多彩な言葉と不思議な経験で綴られたこの物語は、
彼の人生のはじまりの物語。
月ではじまり、月で終わる物語。
この物語の中では、月は未来の象徴。
月を見上げた彼から未来への一歩を踏み出す力強さを感じ取れたことに安堵する。
内容(「BOOK」データベースより)
人類がはじめて月を歩いた夏だった。父を知らず、母とも死別した僕は、唯一の血縁だった伯父を失う。彼は僕と世界を結ぶ絆だった。僕は絶望のあまり、人生を放棄しはじめた。やがて生活費も尽き、餓死寸前のところを友人に救われた。体力が回復すると、僕は奇妙な仕事を見つけた。その依頼を遂行するうちに、偶然にも僕は自らの家系の謎にたどりついた…。深い余韻が胸に残る絶品の青春小説。
「幼年期の終わり」アーサー・C・クラーク(ハヤカワ文庫)
【われわれはこの先、どこにいくのだろうか?】
人類が宇宙に飛び立とうとする、まさにその瞬間。
遥か彼方から地球に訪れた、生命体との出逢い。
この出逢いがもたらすものは一体何なのか。
「人類はもはや、孤独ではないのだ」
わくわくするようなプロローグ。
しかし、別の惑星に住む高度な知的生命体との出逢いは、
私の知る「人類」の終幕へのカウントダウンだった。
産み育てた子供が手の届かない存在となってしまう悲哀と喪失。
未来があると信じられるからこそ生じる活力。
「幼年期」を終えた地球の在り方を見届けられるものは誰もいない。
「その記憶とは、過去の記憶ではなく未来の記憶」即ち予兆。
誰もが知る「悪魔」という概念に対する時間軸の逆転の発想には、ただ唸るしかなかった。
沼沢氏の翻訳した創元版と併読。
言葉の言い回しの細かいニュアンスはこんなに違うんだなーと、
なかなか面白い読書体験でした。
「華氏451度」レイ・ブラッドベリ(ハヤカワ文庫)
【ぼくたちが幸福でいられるために必要なものは、
ひとつとして欠いていません。
それでいて、ちっとも幸せになれずいにいます】
思索することを禁じ、情報の画一化された世界の中で、
知的財産、即ち書物を焼き払うことを生業とする男たちがいる。
知的好奇心を抹消され、己の意思を奪われ、無為に過ごす時間に疑問を持つことは、
果たして、幸か、不幸か。
身を置く世界に異を唱えれば、己の身に危険が及ぶ。
だが、一度溢れ出した疑問は、烏合することをよしとしない。
流れに身を任せて生きることは簡単で安全だけれども。
現実に抗った結果、モンターグが失ったものと得たものをどう捉えるのか。
「一番大切なことは単に生きるのではなく、善く生きることです」
ソクラテスの言葉が脳裏に浮かんだ。
愛してやまない書物を焼き払う炎の描写の美しさに息を呑みました。
書かれたのが1953年。
今なお色褪せないおもしろさ。
内容(「BOOK」データベースより)
華氏451度―この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく…。本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!
「蠅の王」ウィリアム・ゴールディング(新潮文庫)
孤島に不時着した少年たち。
直面したのは、大人のいない世界で生き抜かなければいけない現実。
最初はその自由が楽しかった。
彼ら自身の力で秩序ある生活を保ちながら救助を待つはずが、どこかで歯車が狂い始める。
それは、豚を殺し、血の匂いを知ってしまったがための歪みなのか?
少しずつ何かが軋み始めた集団の中で拮抗する二つの力が反目し合った時、悲劇が起きる。
理性をかなぐり捨て、熱に浮かされたように殺戮へと走り出す。
人から獣へ、完全なる変貌を遂げようとした瞬間の、文明との邂逅。
安堵よりいたたまれなさを感じたのは、何故だろう?
救助された彼らの未来に光を感じることはできなかった。
「たぶん、獣というのは僕たちのことにすぎないのかもしれない」
とても象徴的なサイモンの言葉。
高校生の頃。理性をなくし、本能のままに殺戮に走り出した少年たちの姿に
感じた衝撃がずっと残っていて、またあの嫌な気持ちを引きずるのかなぁ、と、
警戒しながら読み始めたけど、意外とあっさり読了。
それは、内容を知っていたから、というよりも、今に至るまでの私の経験値が
人間ってそういうとこもあるよね、と、思えるようになってしまったから。
何とも複雑な気持ちになりました。
内容(「BOOK」データベースより)
未来における大戦のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃をうけ、南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆りたてられてゆく…。少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。
「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティ(ハヤカワ文庫)
孤島に招かれた面識のない十人。
美味しい晩餐の後の満たされた時間。
そこに響き渡るのは、彼らを断罪する声。
それが合図。
独りずつ命を絶たれていく恐怖の時間の幕開け。
自分だけは大丈夫。
そんな過信は許さない。
迫りくる恐怖に互いに疑心暗鬼になり、或は、精神を喪失していく描写はお見事でした。
終始気になっていたのは「何故」。
犯人は何故そんなことを?
独善的な理由に、それは貴方の役目ではない、と、言いたくなりました。
クローズドサークル内での、童謡の歌詞通りに遂行される殺人。
最後の一人の追い詰められ方にはゾクリ、としました。
赤川氏の解説は共感できることがたくさん書かれていましたが、
「過不足のない、必要にして十分な描写」
この一言に尽きると思います。
簡潔ながら明確に描写された十人の過去と心理。
だからこそ、よりこの物語世界にのめり込めました。
内容(「BOOK」データベースより)
その孤島に招き寄せられたのは、たがいに面識もない、職業や年齢もさまざまな十人の男女だった。だが、招待主の姿は島にはなく、やがて夕食の席上、彼らの過去の犯罪を暴き立てる謎の声が響く…そして無気味な童謡の歌詞通りに、彼らが一人ずつ殺されてゆく!強烈なサスペンスに彩られた最高傑作。新訳決定版。