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きままに読書★

読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。

   

「不思議な少年」マーク・トウェイン(岩波文庫)



読み進めるほどに毒々しさが増していく少年の存在。
際立つ美しさと人ならざる能力を持つが故に、
彼のその毒はより異彩を放ち、係わる人々を振り回す。
そして人は、決して相容れない存在であるが故に、
彼の異質さに気付きながらも魅せられ、或は畏れるのだ。
彼の人間観は確かに一理ある。
全てを否定することはできない。
「今の世界はすべて夢」
一度は浮遊したことがある思考世界。
だが、私は敢えて言いたい。
それでも人は頑張って生きている。
帰属する社会の中で。この現実の中で。
苦悩し、迷いながらも、幸せを願って、或は、幸せを分かち合って、生きているのだ。

うっかり熱く語ってしまったのは、感想を打っているうちに腹が立ってきたから。(笑)
考え方は人それぞれ。
その思考はそれぞれの経験に基づいて培われていくものだってのはわかってるけど。
なんか悔しかったんだよね、私。
人の人生は、そんな簡単に弄ばれていいものじゃない。
歩むべき未来を勝手に無意味だと決めつけないで。
……青臭いかしら?(笑)


内容(「BOOK」データベースより)

16世紀のオーストリアの小村に、ある日忽然と美少年が現われた。名をサタンといった。村の3人の少年は、彼の巧みな語り口にのせられて不思議な世界へ入りこむ…。アメリカの楽天主義を代表する作家だといわれる作者が、人間不信とペシミズムに陥りながらも、それをのりこえようと苦闘した晩年の傑作。

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「悲しみのイレーヌ」ピエール・ルメートル(文春文庫)



混在する真実と虚構。
彼らは何処までが彼ら自身だと言えるのか。
『悲しみのイレーヌ』
ある意味、虚像のままだった彼女。
これは、犯人ありきの物語。
破壊される人間の描写に、いや、もうたくさんです。
キャパオーバーで感覚麻痺ってきました!と言いたくなった第一部。
そこから展開される怒涛のような第二部。
描かれている彼らにどこまで肩入れしていいのかは、
次作を読んでからじゃないと判断がつかないじゃん!と、唸ってしまう結末。
口直しが必要な読後感ではあったけど、
最後まで失速することなくグイグイと読ませる展開はさすがでした。

個人的には『ブラック・ダリア』読了後の本作で思いっきりタイムリー。
ルメートルは『その女、アレックス』を読んだからこそ、
他の作品も手に取ることになった作家ではあるけれども。
未読の方は『悲しみのイレーヌ』→『その女、アレックス』の順番で読まれることをおススメします。
とはいえ、完成度と面白さでは断然『アレックス』だと思うので、
『イレーヌ』のザラザラした読後感にめげずにチャレンジしてもらいたいです。

内容紹介

『その女アレックス』の刑事たちのデビュー作

連続殺人の捜査に駆り出されたヴェルーヴェン警部。事件は異様な見立て殺人だと判明する…掟破りの大逆転が待つ鬼才のデビュー作。

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「ブラックダリア」ジェームス・エルロイ(文春文庫)



読み応え抜群の壮大な物語。
引き込まれ、魅了され、全力を使い切ったような読後の脱力感が心地良い。
発端はとある殺人事件だった。
浮き上がる点と点。
追い続ければ、それがひとつの線となり、思いもよらない事実が浮かび上がってくる。
そんな中、たくさんの人の人生が狂わされ、たくさんの命が失われた。
悪鬼のような所業を語る口で、家族への愛情を語る。
矛盾が当たり前のように同居する人間に戦慄を覚えた。
殴り合いから生まれた友情。
凄惨な事件の真相を追い続ける中で、いつしか築かれたバランスの良い正三角形。
欠点だらけの彼らの在り方が、私はとても好きだった。
そしてとても哀しかった。
彼らの積み重ねた嘘がやるせない。
私も彼らの平安を祈ろう。

エルロイは初読だったけど、かなりいい!とても好き!
まずはLA暗黒四部作を追いかけます。
読書の楽しみが増えました!


内容(「BOOK」データベースより)

1947年1月15日、ロス市内の空地で若い女性の惨殺死体が発見された。スターの座に憧れて都会に引き寄せられた女性を待つ、ひとつの回答だった。漆黒の髪にいつも黒ずくめのドレス、だれもが知っていて、だれも知らない女。いつしか事件は〈ブラック・ダリア事件〉と呼ばれるようになった―。“ロス暗黒史”4部作の、その1。

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「最後の物たちの国で」ポール・オースター



人間としての尊厳がまったく意味を持たないような底に堕ちても、
人は、希望を見出すことができる。
誰かを愛することができる。
奇跡に近い幸運に見舞われることが条件であったかもしれないけれども、
アンナはそれすら、自らの手で手繰り寄せたように思う。
昨日の方が今日よりはまし。
冒頭でそう記していたアンナが、一日生き延びた明日に夢を見ている終盤。
入口はあっても出口のない、最後の物たちの国。
そこではすべてが失われ、そして消えていく。
この国で暮らし、そして出会った彼らの物語の結末はわからない。
けれども、彼らが四人で夢を見ることのできた僥倖に、あたたかい余韻を噛みしめる。

どうやら私は、もっと殺伐としたディストピア的なものを想像していたらしい。
だからこそ、この物語の余韻が余計にあたたかく、泣きたく、切なく響いた。
時として人は、とても残酷で横暴で、傲慢になるけれども。
時として人は、こんなにも優しくて、あたたかい。
すばらしい本に出会えました。
今まで読んだオースターの作品の中ではダントツで好き。

内容(「BOOK」データベースより)

人々が住む場所を失い、食物を求めて街をさまよう国、盗みや殺人がもはや犯罪ですらなくなった国、死以外にそこから逃れるすべのない国。アンナが行方不明の兄を捜して乗りこんだのは、そんな悪夢のような国だった。極限状況における愛と死を描く二十世紀の寓話。

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「香水 ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント(文春文庫)



彼の生み出す香りからは、色彩豊かな情景までもが
鮮明に脳裏に浮かんでくる。
人の感情すら自在に操作することのできる、香り。
そんな香りを意のままに生み出すことのできる、
稀有な才能を持って生まれたグルヌイユ。
香りに取りつかれ、香りを追い求め、そして香りに殉じた男の物語。
奇怪極まるその生き様は、醜悪で崇高で純粋で変質的。
視覚的に思い描けば、物語の最期は悪夢としか言いようがない。
だが、それすら、彼自身が望んだ結末。
思えば、彼の人生において、
彼自身の意に沿わぬことは何ひとつ起こってはいないのだ。
悪酔いしそうな物語。
革命当時のフランスの情景がしばらく脳裏から離れそうにありません。



内容(「BOOK」データベースより)

18世紀のパリ。孤児のグルヌイユは生まれながらに図抜けた嗅覚を与えられていた。真の闇夜でさえ匂いで自在に歩める。異才はやがて香水調合師としてパリ中を陶然とさせる。さらなる芳香を求めた男は、ある日、処女の体臭に我を忘れる。この匂いをわがものに…欲望のほむらが燃えあがる。稀代の“匂いの魔術師”をめぐる大奇譚。

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「すべての美しい馬」コーマック・マッカーシー(ハヤカワepi文庫)



【勇気とは変わらぬ心のことである。
 臆病者が真っ先に裏切るのは自分自身だ。
 ほかのすべての裏切りは、そのあとでやってくるのだ】

クールで大人びた16歳の少年は、
故郷を捨て、自らの意志で選んだ人生を歩み始めた瞬間から、
少年の殻を脱ぎ捨て、大人へと変容していく。
彼は誰よりも公平で、誰よりもまっすぐだった。
アメリカからメキシコへ。
自らの夢を追いかけ、頼る者のいない土地へ友と愛馬と共に移り渡った彼は、
理不尽に見舞われ、恋に落ち、刑務所に入り、そして、正義と出逢う。
男たちの荒々しさ。彼女との一夜。
耳元で感じ取れるかのような、馬の吐息の熱さと嘶き。
心理描写を排し、淡々と語られる文体から、
時に凛とした美しさを孕んだような情景が見事に伝わってくる。
そして、彼の「きたるべき世界」へと想いを馳せるのだ。

トルティーヤがとても食べたくなりました。
すべての人に受け入れられるような文体ではないのだろうけど、
個人的には妙にクセになる作家さんです。
噛みしめれば噛みしめる程、味が出てくるんだろうなぁ。



内容(「BOOK」データベースより)

1949年。祖父が死に、愛する牧場が人手に渡ることを知った16歳のジョン・グレイディ・コールは、自分の人生を選びとるために親友ロリンズと愛馬とともにメキシコへ越境した。この荒々しい土地でなら、牧場で馬とともに生きていくことができると考えたのだ。途中で年下の少年を一人、道連れに加え、三人は予想だにしない運命の渦中へと踏みこんでいく。至高の恋と苛烈な暴力を鮮烈に描き出す永遠のアメリカ青春小説の傑作。

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「ヴェネツィアに死す」トーマス・マン(光文社古典新訳文庫)



【なるほど、私を待っていたのは海と浜辺ではなかったのだ。
 おまえがいる限り、私はここにとどまろう!】

水の都、ヴェネツィア。
その街の美しさと醜悪さを描く描写。
比類ない美しさを備えた少年の描写。
そして、孤高の老作家の内面の描写。
情景がとてつもなく鮮明に脳裏に浮かび、
心理がひしひしと押し迫る描写にくらくらとするような眩暈を覚えながら読了。
身も蓋もなく言ってしまえば、老作家はストーカー。
少年にしてみれば、見知らぬ老人につけ回される気味の悪い話である。
が、少年と老作家の視線が交わった瞬間の描写はあまりにも美しく、
鳥肌が立つかと思いました。
一度は逃げ出そうとした街に再び戻らざるを得なかった老作家。
多分、その瞬間から彼の運命は決まっていたのだろう。
彼を奈落の底へと呑みこんだのは少年の存在か、或は、芸術という概念そのものなのか。
私には計り知れない。

内容(「BOOK」データベースより)

高名な老作家グスタフ・アッシェンバッハは、ミュンヘンからヴェネツィアへと旅立つ。美しくも豪壮なリド島のホテルに滞在するうち、ポーランド人の家族に出会ったアッシェンバッハは、一家の美しい少年タッジオにつよく惹かれていく。おりしも当地にはコレラの嵐が吹き荒れて…。

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「怒りの葡萄 上」スタインベック(新潮文庫)



【大丈夫かどうかって問題じゃないよ。
 やるつもりがあるかどうかの問題だよ】

いつの間にか呑まれてしまった理不尽という名の河の流れに押し流されるかのように、
西へ向かう人々。
その河の水は流される人々の汗と血と涙と、
そして彼らの失った大地の土とで混濁している。
運命に抗う術を持たぬ彼らは、土地を奪われ、家を壊され、
その理不尽に憤りながらも、流されるしかない。
向かったその先に幸いがあると、己自身に言い聞かせて。
「残された者は家族だけ」
母親の言葉が胸に刺さる。
その家族ですら、過酷な現実に奪われていく。
1930年代アメリカ。
彼らの抱いた縋るのような思いを踏みにじらないでほしい願いながらも、
最後の一文に息を呑む。
そして、次巻へ。

気力と体力がそれなりに充実していないと、
文章に圧倒されて読み進めることがキツイな、と思いました。
初版が1939年。
90年近くの時を経ても尚、これだけのエネルギーを感じさせる物語。
一呼吸おいて、次巻に備えます。

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「悲しみよこんにちは」フランソワーズ・サガン(新潮文庫)



【酔っていると、人はほんとうのことを言うが、誰もそれを信じない。】

無邪気で罪深い人たちの物語。
読後、時間が経つほどに、引き攣るような想いがジワジワとこみあげてきて、
共感と反発を覚えた彼らの想いが、流れ込んでくる。
若さ故の傲慢な思い上がり。
思い込みの正しさ。
各々が抱いた自己愛と独占欲。
そんな感情に起因する行動からは、思いやりと想像力が欠落していて、
互いを傷つけずにはいられない。
起こるべくして起こった悲劇。
それでも彼らの時間は前へと進みつづける。
17歳のセシルにとってこのひと夏の出来事が、
あたかも、美しい蝶への化身を遂げるための
甘くて苦い蜜であったかのようで、ゾクリとしました。
悲しみよ、こんにちは。
少女時代の終幕。

流れるような美しい文書がとても素敵。
何度も噛みしめたくなるような言葉と情景が、そこには広がっていました。
哀しいわけじゃないけど、何故か涙が零れそうです。


内容(「BOOK」データベースより)

セシルはもうすぐ18歳。プレイボーイ肌の父レイモン、その恋人エルザと、南仏の海辺の別荘でヴァカンスを過ごすことになる。そこで大学生のシリルとの恋も芽生えるが、父のもうひとりのガールフレンドであるアンヌが合流。父が彼女との再婚に走りはじめたことを察知したセシルは、葛藤の末にある計画を思い立つ…。20世紀仏文学界が生んだ少女小説の聖典、半世紀を経て新訳成る。

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「ムーン・パレス」ポール・オースター(新潮文庫)



【変化、というものも僕は考えている。
 何ごとも、いつでも、突然、永久に変わってしまいうるのだということを。】

人の営みは、すべて繋がっている。
過去があってこその現在。
親があってこその子。
そして構築される歴史。
だが、人と人との絆は必ずしも永遠に継続しうるものではない。
交わり、親密に絡み合い、ふいに断ち切れる。
それは、死であり、別れであり、自然な消滅でもある。
出逢いと別れの繰り返し。
けれども、たぶん、それが人生。
絶望に呑みこまれ、周りの人たちの善意によって人生を立て直し、
そして再びすべてを失ったかに見えるマーコだけれども。
彼の得たものは確実に彼のこの先の人生の糧となる。
多彩な言葉と不思議な経験で綴られたこの物語は、
彼の人生のはじまりの物語。

月ではじまり、月で終わる物語。
この物語の中では、月は未来の象徴。
月を見上げた彼から未来への一歩を踏み出す力強さを感じ取れたことに安堵する。


内容(「BOOK」データベースより)

人類がはじめて月を歩いた夏だった。父を知らず、母とも死別した僕は、唯一の血縁だった伯父を失う。彼は僕と世界を結ぶ絆だった。僕は絶望のあまり、人生を放棄しはじめた。やがて生活費も尽き、餓死寸前のところを友人に救われた。体力が回復すると、僕は奇妙な仕事を見つけた。その依頼を遂行するうちに、偶然にも僕は自らの家系の謎にたどりついた…。深い余韻が胸に残る絶品の青春小説。

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