きままに読書★
読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。
カテゴリー「海外小説」の記事一覧
- 2017.09.03 「デミアン」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)
- 2017.08.12 「地下室の手記」ドストエフスキー(新潮文庫)
- 2017.07.23 「青春は美わし」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)
- 2017.06.11 「青い眼が欲しい」トニ・モリスン(ハヤカワepi文庫)
- 2017.06.03 「クヌルプ」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)
- 2017.05.17 「蝶」ヘルマン・ヘッセ(同時代ライブラリー)
- 2017.05.14 「変わらぬ哀しみは」ペレケーノス(ハヤカワミステリ文庫)
- 2017.04.26 「流浪の果て」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)
- 2017.04.15 「城」カフカ(新潮文庫)
- 2017.03.11 「武器よさらば」ヘミングウェイ(新潮文庫)
「デミアン」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)
デミアンとの出逢いによって開かれたシンクレールの世界。
彼の人生は様々な場所を巡り巡ってデミアンへと帰結する。
そして訪れた魂の導き手からの決別。
そこから先へ踏み出す瞬間こそ、彼自身で築きあげる世界の始まり。
美しい情景描写に彩られてきたこれまでのヘッセの作品とは打って変わって、
自らの在り様を、そして世界の在り様を内省していく物語。
「カインのしるし」
持っている人、持たざる人、とより分けられる線引きが、
率直に言ってしまえば鼻につくのがちょっと残念。
若いころに読んだ時の方が、同調できた気がする。
20年以上たって感じる乖離は、様々なものを見てきて感じてきた私自身の成長だと捉えることにします。
初読も高橋健二訳だと思っていたのですが、どうやら吉田正乙氏の訳が初読だったみたい。
吉田氏→高橋氏→高橋氏、と今回三度目。
読むたびに感想が違っていておもしろい。
というか、初読の時(1990年)の自分の感想に今の私がまったく同調できなくて、
眩暈がしました。(笑)
とはいえ、この作品が名著であるという思いも、この作品が好きな気持も
全く変わらず。
また時間をおいて再読してみたいと思います。
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「地下室の手記」ドストエフスキー(新潮文庫)
なんてめんどくさい男なんだろう、と思いつつ読み進める。
人生を息苦しいものにしてしまっているのは、自分自身。
見栄を張ることも虚栄心を持つことも負けん気の強さを発揮することも時には大事。
だけど、度が過ぎるとただひたすら鬱陶しい存在になるだけ。
そして気づけばひとりぼっちになってしまう。
時に一歩引き、或は素直にならなければいけない局面もある。
俺が俺が俺が!が全面押しだと、理解しようという気持ちが萎える。
自尊が高いくせに自己を卑下し、他人を見下しつつ、
構ってほしい、認めてほしいという気持ちが抑えられない。
そんな孤独な俺様が記した手記。
「え?別に…」「ん?だから?」「御勝手に」
私からのレスポンスは一貫してこんな感じで、
投げかけられる問いにまったく相容れなかった。(笑)
素直になれなかったり、思ったことと逆のこと言っちゃったり。
それは私にもある。全然ある。
だから理解できる部分がないわけではない。
でも極端すぎて「あ、めんどくさい」と、なりました。
【ガーディアン必読 55/1000冊】
「青春は美わし」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)
それは、淡く美しく、成就しない恋。
澄み切った余韻をどこまでも引きずりながら、
小さな痛みを胸に宿す。
決して穢れることのない、青春の思い出。
収録作品二編共に描かれていたのは、儚い恋。
ふわり、と、たゆとい、形を成す前にあえかに霧散する。
だけど、確かにそこにあった想い。
特に『ラテン語学校生』
当事者である主人公はまだ10代半ば。
彼の瑞々しい感受性がキラリと光る。
そして、最後に彼が目にした揺るぎのない愛。
実らなかった初恋の代償として得たものは、とてつもなく尊いものだった。
やさしく紡がれるヘッセの物語。爽やかに読了。
蛇足ながら付け加えれば、
主人公が若干思い込みが激しいところも二編の共通項。(笑)
数年帰らなくとも、あたたかく自分を迎え入れてくれる故郷がある。
それがどんなに喜ばしく、素晴らしいことなのかが伺える。
だけど、次の帰郷の時に彼女はいないのかな?
たった一行のとても気になる描写が引っかかって仕方がない。
「青い眼が欲しい」トニ・モリスン(ハヤカワepi文庫)
無いものねだりという次元ではとても括れない切実な祈り。
「青い眼が欲しいの」
黒人の少女の悲痛なまでの願いは、偽りの牧師にですら、こう、言わしめる。
「かなえてやるのに一番ふさわしい願い」だと。
彼女をそこまで追い詰めた、目を覆うような出来事。
そんな少女のために、姉妹が願った奇跡。
奇跡は起きなかったけれども。
それはあなた達のせいではない。
偏見や差別が、同じ黒人の間にも蔓延る悲劇。
他者と己を比べ、その優劣を見つけては他者を見下し、己を卑下する彼ら。
だけど、そこが、彼らの生きる世界。
物語の進行は分かりづらいけれども、これしかないと思えるものだった。
彼女が語るように「なぜ」の答えを得ることはとても難しい。
だからこそ、知らなければならない。
彼らの悲劇を。
根本的な問題は眼の色ではないのだ。
それでも、願わずにいられなかった少女。
Coccoの歌声が相応しいと、何故か思ってしまった物語。
重かった。
【ガーディアン必読 53/1000冊】
「クヌルプ」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)
静かに、とても静かにこみ上げる涙。
ヘッセの物語には濁りがない。
清らかな水のように心に沁みる。
さすらい続けたクヌルプの人生。
彼の魂は孤独を訴えかけるけれども。
彼の周囲は愛にあふれていて、誰もが彼に手をさしのべる。
心からの善意と親しみで。
「死」はいずれ誰しもが直面する事象。
その前に故郷に帰りたいという彼の願い。
辿りつけたことに安堵する。
神さまとの対話で顧みる彼の半生。
あるがままに、思う通りに生ききったのだと、
微笑むことのできるおだやかさが、とてもやさしい。
そして、最後の一文を噛みしめる。
ある意味、理想。
繰り返し読みたい作品。
心の中が清らかになった気がする不思議。(笑)
そして、ここまで読んでくると、時々「ん??」ってなる高橋訳も楽しいスパイス。
「蝶」ヘルマン・ヘッセ(同時代ライブラリー)
ヘッセにとって、儚く、美しく、そして滅びゆくものの象徴、それが蝶。
蝶に纏わる短編や詩編を収めた本書。
色とりどりな蝶に飾られた本書は、装丁も美しい……けど、
リアル蝶や蛾なので、苦手な方は要注意。
蝶を形容するために散りばめられた言葉の多彩さと、
その表現の美しさに魅惑され、
「キベリタテハ」を読みながら、指先に止まった蝶の軽やかさを思い出す。
本書購入のお目当ては「クジャクヤママユ」。
馴染の良いタイトルだと「少年の日の思い出」。
覆水盆に返らず、という言葉しか浮かばない。
とは言え、子供を正しく導くことのできる母親の存在は偉大だな、と、改めて。
「白と深紅のその蝶は、野の奥深くへと吹かれていった」
この表現が一番印象に残った。
蝶を追いかけて捕まえることのなくなった私にとっての蝶は「モチーフ」。
服や小物の柄に、綺麗で神秘的に描かれている物であるイメージ。
実際は繊細な翅をはためかせ、ふわりと風に舞うように飛んでいる生き物であることを、
改めて思い出しました。
蝶を触らなくなってどのくらいになるんだろう?
内容(「BOOK」データベースより)
美しいもの、亡びゆくものの象徴―蝶を、生涯にわたって愛しつづけたヘルマン・ヘッセ。蝶採集のときめき、異国の蝶や高山の蛾の珍品との出会い…。「華麗な恋人」蝶との熱いかかわりを綴る散文作品と、「色美しくそよ風のように飛ぶ」蝶を讃え、「きらめきながら消えてゆく」生命の神秘をうたいあげた詩。手彩色の銅版画などのカラー図版で飾る。
「変わらぬ哀しみは」ペレケーノス(ハヤカワミステリ文庫)
1960年代のアメリカ社会の混乱と騒動の中に生きる人々の人生が、
過剰な装飾はなく、淡々と語られる物語。
だが、その時代に生きた人々の日常はこうであったのだろうと、
圧倒的なリアリティを伴って迫ってくる。
家族。暴力。愛情。自立。人種。堕落。
そんな彼らの人生は、どこかほろ苦い。
道を過たず、堅実に人生を歩む者。
どうしようもない悪行に手を染める者。
気付けば、深みにはまって抜けられなくなってしまった者。
たくさんの登場人物たちの人生と、当時のアメリカの現状を
むせ返るような熱気と共に見事に描いた物語。
一気に読まされました。
読後はやるせない余韻がジワジワと染みてくる。
何故かこれがシリーズ1作目だと思って読み始めた私。
実際は4作目だけど、時代的には一番過去の物語だから結果オーライ?
ペレケーノスもコンプリしたい作家さんの仲間入り。
【ガーディアン必読 52/1000冊】
内容(「BOOK」データベースより)
1968年、黒人警官デレク・ストレンジは己れの職務をまっとうしていた。白人から罵られ、黒人から同砲を取り締まる裏切り者と蔑まれても。時代は大きくうねり、黒人はキング牧師の下、権利の拡張のため社会運動を起こしていた。その最中、黒人青年が車に轢かれて不可解な死を遂げた。警察の捜査は進まず、やがて黒人による暴動の兆しが見え始める。その時デレクは…ハードボイルドの詩人ペレケーノスが綴る時代の慟哭。
「流浪の果て」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)
対照的な二編を収録。
人生の終焉間近な人たちの物語と、これからの時代を担う若者たちの物語。
「流浪の果て」
冒頭ののどかな風景描写に、
余生を仲間たちと穏やかに暮らす人々の姿を思い描いて読み始める。
個性が強い面々の養老院での暮らしがコミカルに描かれていて、
微笑ましく読んでいられるのも最初の内だけ。
孤独で生きる目的のない毎日に、壊れていく心。
そして、唐突に訪れる終焉。
とても寂しい。生き甲斐って大事。友達も大事。
「干草の月」
恋とは言えない。
かけひきですらない。
熱に浮かされたようなその瞬間の高揚に心を浮き立たせる少年と少女。
純情で残酷。
残念なことに、私にとっては二編とも読後感があんまりよくなかった。
とはいえ、風景描写の美しさは相変わらず素敵。
特に「干草の月」ではロママンチックな響きのある夜の描写が印象的。
でも、総括すると、うー、と、唸りたくなる読後なのでありました。
もうこれは私の受け止め方の問題(笑)
「城」カフカ(新潮文庫)
本題に関してはびっくりするぐらい何も起こらず、
恋愛に関してはびっくりするぐらい急展開で事が進行し、
結果、この人はいったい何をしにここに?と、ぽかーんとして読了。
恋に落ちるのは早いし、たとえそれが勘違いだったとしても結婚を決意するのは早いし、
別れるのも早いし。
かといって、肝心なことは一切進展せずに物語は終幕。
お城!お城が遠いよ!
なのに、不思議と読みつづけてしまう物語。
閉鎖的で排他的な村にKが拘った理由が、わからないようでわかる。
村そのものじゃなく、自分の存在意義に拘ったんだろうなぁ。
それが幸か不幸かは私が決める事じゃないけど、
私だったらとっととUターンしてるわ。
『虐殺器官』の作中で「カフカの『城』」というセリフがなかったら、
読むのはもうちょっと後になっていたかも?
クラムの存在は『闇の奥』のクルツと重なった。
名前、似てるし(笑)
とりあえず私、この村には住めないと思ってみました。
内容(「BOOK」データベースより)
測量師のKは深い雪の中に横たわる村に到着するが、仕事を依頼された城の伯爵家からは何の連絡もない。村での生活が始まると、村長に翻弄されたり、正体不明の助手をつけられたり、はては宿屋の酒場で働く女性と同棲する羽目に陥る。しかし、神秘的な“城”は外来者Kに対して永遠にその門を開こうとしない…。職業が人間の唯一の存在形式となった現代人の疎外された姿を抉り出す。
「武器よさらば」ヘミングウェイ(新潮文庫)
第一次世界大戦下のイタリアで出会ったアメリカ人青年と、イギリス人女性。
酷く過酷な状況下で、それでも、時に笑顔を向けあいながら向かった彼の地で
彼らは幸せになるはずだった。
何度もささやきあった愛の言葉。
それなのに、心に残るこの喪失感とやるせなさ。
戦場での兵士たちの陽気な会話。
戦場の中に在っても、恋に落ちる者もいる。
戦争の中にも、生活があるのだ。
と、同時に、戦場の中では命はいとも簡単に失われ、
理不尽な思いを強いられる。
戦争は悲劇しか生み出さない。
それを、改めて突きつけられた。
フレドリックに降り注ぐ雨は、いつかは止む。
けれども、失ったものは決して戻らない。
「戦闘に勝ったからって、戦争に勝利することはできない」
色々と考えさせられる言葉。
え、ちょっとぉ!という、読後の放り出され感が半端なかった。
【ガーディアン必読 51/1000冊】
内容(「BOOK」データベースより)
苛烈な第一次世界大戦。イタリア軍に身を投じたアメリカ人青年フレドリックは、砲撃で重傷を負う。病院で彼と再会したのは、婚約者を失ったイギリス人看護師キャサリン。芽生えた恋は急速に熱を帯びる。だが、戦況は悪化の一途を辿り、フレドリックは脱走。ミラノで首尾よくキャサリンを見つけ出し、新天地スイスで幸福を掴もうとするが…。現実に翻弄される男女の運命を描く名編。