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きままに読書★

読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。

   

「夷狄を待ちながら」J・M・クッツェー (集英社文庫)



実体の掴めない夷狄に……というよりも、
帝国の治安警察に振り回される辺境の町の住人たち。
そして、退官した後の平穏な生活を願う初老の民政官もまた、
治安警察の在り様に振り回され、或は巻き込まれ、
彼自身の生活が崩壊していく。
意図せずして窮地へ追い込まれる怖さはいつの時代にもある。
謂れのない拷問を見て見ぬふりをしていればよかったのだろうか?
力を振り翳す者からの理不尽な危害を受けないためには、
目を瞑っていればよかったのか?
彼の立場を自分に置き換えた時のこの自問には、いつだって答えられない。
ラスト四行で押し迫る物悲しさが、何とも形容しがたい程やるせない。

読み始める前は『夷狄を待ちわびて』だと思っていたので、
異文化交流的なホンワリした話かと思いきや!
正しいタイトルは『夷狄を待ちながら』。
のっけからの拷問シーンに何ごと!?と、ガツンとやられました。
思い込みって怖いわ~~。←読む前にあらすじは読まない人です。
【ガーディアン必読 74/1000】


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「ボビーZの気怠く優雅な人生」ドン・ウィンズロウ (角川文庫)



ザ・エンターテイメント!
諾でも死。否でも死。どっちにしろ崖っぷち。
へなちょこな泥棒が伝説の麻薬王になりきって、生き抜くことができるのか?
そして、自分の命すらままならない状況下で、庇護すべきものを抱えてしまったら?
それは、自らの行く手を遮るお荷物にもなり得るし、
持てる力以上のものを発揮できる原動力にもなる。
ティム(27歳)とキット(6歳)のコンビが殺し屋たちの魔の手を躱していく様が
とても楽しくて、時にホロリとくる。
キットを守るためにへなちょこを脱していくティムの成長物語……とは言いすぎか。
へなちょこが最後にみせた決死の覚悟。
おもしろかった。

顔に生涯癒えない醜い傷を刻むと脅され、
口紅でその傷を描くような線を引いたエリザベスの姿が印象的。
誰かのために戦える人たちの芯は容易には折れない。
あとがきの出だしの四行に大笑いして、そのノリわかるわ~、と納得の読了。
次のウィンズロウは、出版順通り『野蛮なやつら』→『キング・オブ・ルール』といくか、
前日譚の『キング・オブ・ルール』を先に読むか。
悩み中。

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「黙示録3174年」ウォルター・M・ミラー・ジュニア (創元SF文庫)



とてつもないスケールの時空の旅からの帰還。
読了後、ため息と共に我に返るまで暫しの時間を要した。
繰り返される歴史。再び訪れる終末世界。
リーボウィッツ修道院を起点に語られる世界の変遷。
そこには繰り返される中世があり、現代があり、未来がある。
その未来に人類が同じ愚を犯すのは著者の警告なのか、或いは絶望なのか。
飛び去った星船に希望を託したい所だけど
「行ったら戻っては来ない」の言葉がやるせない。
地球上の鮫が、そして人間がお腹いっぱいになれた未来は訪れたのかな?
各章ごとの主要人物の死に様は胸に迫るものがあった。→

充実した読書時間。
頁数の多さより文字の細かさの方に戦きつつ、
読み始めたら途中で放り出せない読みごたえとおもしろさでした。
SFというジャンルに囚われず、普遍的に読み次いでいってもらいたい作品。
【ガーディアン必読 73/1000】

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「カラマーゾフの兄弟〈下〉」ドストエフスキー (新潮文庫)



感情と想像と印象とで展開された感じの否めない裁判。
圧倒されるよりも、え?それでいいの?という戸惑いが先に立ってしまった。
もう少しメンタルが強いかと思っていたイワンが
スメルジャコフとの対話の後に壊れてしまい、
アリョーシャはドミートリィは無実だと言いつつ、
裁判の結果を受け入れる。
そして、口は災いの元、と教えてあげたいドミートリィ。
もうちょっと上手く立ち回れればよかったのに、と思うけど、
だったらこんなことになってないわね。
俺俺インパクトの強すぎる人たちがテンコ盛りな作品。
描き分けた著者が凄すぎる。


「カラマーゾフ万歳」で終幕したことに対しては
「ちょっと待ったぁ!」と異議申し立てをしたい私。
え?色々気になることあるんですけどー!
上中下。1750項を読んできても、続編が気になる!と思わせる超大作。
でもとりあえずはおなかいっぱい。
【ガーディアン必読 72-3/1000】







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「カラマーゾフの兄弟〈中〉」ドストエフスキー (新潮文庫)




敬愛する長老の死に直面し、心を乱すアリョーシャ。
惑いの果てに、彼がある種の天啓を得る場面はとても印象的。
ドミートリィや周囲の人々は、絶好調な俺俺節。
日々、このテンションで生きるのは、
底なしの体力とタフなメンタルが必要だとつくづく思う。
全力で過ごす日々はさぞかし刺激的なんだろうなぁ、とも。
どうしてそこまで自分に都合の良い解釈ができるのかと、
ドミートリィの頭に見えるお花畑。
必死さが裏目に出るというよりも、独りよがりすぎて空回り。
そんな中で起こる事件。
彼の無罪を知っているのは我々のみ。
さぁ、どう展開する?


「酔っぱらっているわけでもないのに、なんてばかげたことばかりわめいているんだ」
ドミートリィを表すのにはこの一文に尽きると、頷くことしきり。
計算や駆け引きが全くできない人なんだなぁ、とも。
意味ありげな記述もあったから、アリョーシャのその後がとても気になるんだけど、下巻の目次にはそれらしい記述がなくてがっかり。
まずはドミートリィの物語を見届けます!【ガーディアン必読 72-2/1000】

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「カラマーゾフの兄弟〈上〉」ドストエフスキー (新潮文庫)



俺が俺が俺が。お・れ・が!と、自分全面推しな人たちがたいへん騒々しい。
本当にみんなよく喋る。
男子たちの俺主張にあっけにとられている中、登場した女子が心の癒しになるかと思いきや。
こちらも思い込や、妄想の入った私主張で姦しい。
俺俺主張にも温度差や個性があって、
そこから感じ取れるそれぞれの人間味にひっぱられて読み進めると、
なんだか愉快な会話が展開されていく。
「カラマーゾフ流」とか「カラマーゾフ型の人間」とか。
カラマーゾフ推しがすごい中、カラマーゾフでありながら、
アリョーシャは何色にも染まっていないから、皆彼に心を開きたがるのかしら?
彼らのエネルギーに圧倒されたまま次巻へ。


もっと重厚で物々しい雰囲気の作品だと思っていたけど、
蓋を開けてみれば狂騒曲。
とはいえ、今後はスリリングな展開になるはず。
宗教観については感じたことがあるけど、
的を射ているのか外れているのかわからないのでとりあえず割愛。
ロシア人の語るキリスト教って、あんまり触れてきたことなかったなぁ。
【ガーディアン必読 72-1/1000】







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「殺人者の顔」ヘニング・マンケル (創元推理文庫)



過疎の田舎町で起こった凄惨な殺人事件。
その事件解決に奔走する警官にも、日常の営みがある。
家族の崩壊。
親の介護。
淡いときめき。
仕事での一喜一憂。
病魔との闘い。
人生の苦悩。
日常の悩みを抱えながらも、懸命に仕事をこなす彼らの姿には、
どこか親しみを覚える。
そして、人が生活する社会には様々な問題が内在していることもまた、突きつけられる。
高齢化社会の他に
本書が描かれた当時の欧州よりも、今の方がより深刻な問題と化している移民問題。
差別的な思想から、痛ましい事件が起きてしまう。
一冊の本に多くのことがギュッと濃縮された作品。



冒頭で、年老いた夫が、隣で眠っている
長年連れ添った妻の吐息を確認するシーンがとても印象的。
「一人になってしまったわけではないのだ。まだ」
読了後は事件解決の爽快感ではなく、もの淋しさを噛みしめる。
誰にでも、いずれ別れが訪れることを知っているから。



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「鍵のかかった部屋」ポール・オースター (白水Uブックス―海外小説の誘惑)



彼の著作。
彼の妻。
彼の子供。
そして、彼の想い。
全てを引き受け、いまはここにはいない彼・ファンショーの人生を追跡するうちに、
次第に自分の脚元を見失っていく僕。
その作業にのめり込むほどに彼と自分との境目が曖昧になり、いつしか僕も
「鍵のかかった部屋」の内側に閉じこもった彼と同じ道を行くのかと思ったけれども。
そうはならなかったことに目を瞠る。
三部作を読んできて、あ、と思った瞬間。
ファンショーとの決別は、ようやく得ることのできた自我の確立。
いや、妻に「帰る」と伝えた時点で、僕は既にファンショーの影と決別し、
自らの脚で立っていたのだと思う。
ソフィーがいてくれたことに感謝だよ。

【ガーディアン必読 10-3/1000冊】『ニューヨーク三部作』三作目。
『ガラスの街』『幽霊たち』と、自分の立ち位置としてはずっと
物語全体を俯瞰するような感じで読んできたけど、
ここにきてようやく物語の中に入れてもらえた気がする。
各々独立しても読めるとはあるけれども、その感動(?)を噛みしめるためにも、
個人的には順番に読んでいっていただきたい作品。


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「幽霊たち」ポール・オースター (新潮文庫)



奇妙な依頼に端を欲した単調な毎日。
他者の為に費やされる膨大な時間。
他者の影を追う生活に、自分の人生はない。
それが、探偵である自分が受けた仕事である以上、
全うしなければならない任務。
けれども。
次第に膨らむ疑念。
果たして、真に監視されているのは一体誰なのか?
自分の書いた報告書は誰の手に渡っている?
自分はなんのためにここに在る?
息が詰まりそうな閉塞的な世界は、彼が傍観者から当事者に成り変った瞬間に崩壊する。
そして、私こそが幽霊たちの影を掴み損ねたかのような想いに包まれるのだ。
現実味を欠いた浮遊感に呑み込まれたまま。


【ガーディアン必読 10-2/1000冊】
『ニューヨーク三部作』の二作目。
そうそう、この感じがオースター。
と。
久々に彼の描く不思議な世界を浮遊してきました。
そう。
「浮遊する」
オースターの作品を読んだ時の感覚は、この言葉が自分的には一番しっくりきます。
作中で劇的な何かが起こるわけではないけれども、とても印象深い何かがそこにはある。
だけど、それはあくまでも感覚的なもので、特に何が、と具体的に語ることは難しい。


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「夜中に犬に起こった奇妙な事件」マーク・ハッドン (ハヤカワepi文庫)



彼は知りたかっただけ。
誰が犬を殺したのか。
その事件の真相を知ろうとして明るみに出てしまったのは、
秘匿された別の事柄の真実。
それは、彼を打ちのめすのに十分なものだったし、
彼の父親にとっても気の毒なものでもあった。
大人の都合で振り回されるのは子ども。
だけど、子どもも大人の事情や複雑な心情を理解することはできない。
すべてにおいて正しい人はいなくて、
みんなが抱えた事情の中で懸命に頑張っている。
(彼の母親には私はどうしたって共感はできない)
日記めいた形式で綴られる、彼の観ている世界。
大冒険をやり遂げた彼の世界がこれからどう広がっていくのか。
父親とのプロジェクトが首尾よく進行することを願う。



軽い気持ちで読み始めたら、思いのほか深い話で、色々考えさせられました。
ここからはネタバレになるので、目を通される方はご注意くださいね。
その成長がどうしても見たくて。
離婚した元旦那に引き取られた娘に会いに行った私の友だち。
ところが、娘さんは母親は亡くなったと伝えられていて……というリアル話。
元旦那は再婚を考えていた女性にも同じ嘘をついていたらしく、結局再婚自体が破談。
ついていい嘘とついちゃダメな嘘がある。
【ガーディアン必読 71/1000】

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