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きままに読書★

読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。

   

「死にゆく者への祈り」ジャック・ヒギンズ(ハヤカワ文庫NV)



もしも彼らと違った出逢い方をしていたら?
愚問なのはよくわかっている。
そんなことは私の感傷。
だけど、あんなことでもなければ出逢わなかったであろう人々と
接点を持つことによって、
彼の魂は少しは安らぐことができたのだと。
そう思うことは許されるだろう。
自らを「歩く死骸にすぎない」と言い切った男が、
他人のために燃やした命。
だが、そもそもの発端を考えれば、それは美談にはならない。
彼は自らの行為の決着を、自らの手で付けたに過ぎないのだから。
だが、彼の生き様は、最後に彼に係った者たちの心に永遠に生きるだろう。
彼の示したやさしさと贖罪の想いと共に。

「あなたは誰?誰なの?」このアンナの問いに対するファロンの返答。
「どんな男でも、そんなふうに訊かれては答えようがない」
これがものっすごくかっこいい。
この表紙は飾っておきたいくらいお気に入り。
勿論、作品自体もとても面白かった。



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「血と愛」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)



究極の合わせ鏡。
誰よりも理解しあいながら、相対的な世界に属する二人。
相容れないことを理解した上での尊敬と敬愛。
心に秘めた二人の想いは決して言の葉に乗せられることはないと思っていたけれども。
ナルチスの告白に泣いてしまった。
あまりにも尊い友情、そして愛の形。
解き放たれた小鳥は流浪の旅を経て、豊潤な感性の泉を携えて戻ってきた。
「愛するというのは彼にとっては自然な状態ではなく、奇跡だったのだから」
愛を享受できた彼は幸せだった。
そして、帰る場所を得、芸術を生み出した彼も幸せだったに違いない。
この作品に出会えた私も幸せ。

奔放な経験による感性。
清貧と思索による知性。
いや、女ってそんか簡単じゃないよ?と、ちょっと思いつつ(笑)。
年の瀬にとても素晴らしい作品を読みました。

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「評決のとき 下巻」ジョン・グリシャム(新潮文庫)



一人一人の人間模様を描いた物語。
と捉えれば、楽しめる。
だけど、最終的には感情論に寄ってしまった裁判の在り様には、やっぱり首を傾げてしまう。
これは、私が日本人で著者がアメリカ人だから?
そして、家を燃やし、人を殺し、やりたい放題やらかして去って行った
クークラックスクランがお咎めなしなところもすっきりしない。
そもそも、白人の報復殺人は容認される、というスタート地点からクエスチョンマークだった私は
最後までおいてけぼり感満載でした。
百歩譲ったとして二人が無罪判決出された後ならともかく、
やっちゃいけないことは、やっちゃいけないんだよ。


久々に楽しく、ではなく、がんばって読んだ本。いいとこ探しができなかった。
【ガーディアン必読 60-2/1000冊】



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「評決のとき 上巻」ジョン・グリシャム(新潮文庫)



娘を凌辱された父親の行動を、感情的には全否定はできない。
だけど、犯人を裁くのは法律のはず。
そもそも、裁判が始まる前に父親自らが銃を手にして犯人を射殺し、
最初からそれを無罪だと声高に主張できる社会がアメリカ?
人種問題以前の部分で、報復殺人が当たり前のように囁かれていることに、
首を傾げてしまった。
アメリカの法制度が詳細に書かれていて、その点は勉強になる。
弁護士や検事も慈善事業でやっているわけじゃないから、
顧客獲得や知名度をあげるために様々な工夫(?)をしていて、
その辺りも人間味があっておもしろい。
思うところ色々ありながら、下巻へ。

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「グノーシスの薔薇」デヴィッド・マドセン(角川書店)



「なんじゃこりゃ!?」と度肝を抜かれたところから始まって、
まさかやるせなさに泣くとは思わなかった。
というか、泣いたら負ける気がしたから頑張って堪えたよね。←何と戦ってた?
人の欲望、身勝手さ、傲慢、猥雑、悲哀、献身、情愛。
人間らしい感情が良くも悪くも渦巻く物語。
よって引き起こされる悲劇や喜劇。
何に重きを置くかによって、己の行動指針は変わる。
彼が最後に選び取ったものは、私には必要のないもの。
だから「何やってんの~~!」と叫びを押し殺しての読了。
ルネッサンス期の歴史と虚構の見事な共演。
すごい作品を読みました。いろんな意味で。

この帯で先入観を植え付けたことによって、
作品の評価を下げる役割を果たしていると思うんだよね。
でも「インディペンデント」紙の評価には同感。なので、引用。
「出だしの俗っぽさに惑わされてはならない。
本書はその奥にぞっとするほど、深く暗い厳格さを秘めている」
厳格さがどこにあるかはそれはそれで謎なんだけど(笑)
おなかいっぱい感満載な感じで頁を閉じてみました。
やっぱ「すごかった」。この一言に尽きるわ。
【ガーディアン必読 58/1000冊】

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「シッダールタ」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)



この世界に在るものの、一切の肯定。
そして、あるがままの我々の在り方の肯定。
一度は世俗に塗れたシッダールタの、否定の一切ない、
あたたかく愛に満ちたまなざしが胸に沁みる。
そんな彼とて、完璧ではない。
彼は父を顧みず、或は、息子を縛る。
痛みを知り、挫折を知り、哀しみを知る。
だからこそ、他者にやさしく、どこまでも寛容で在れる。
シッダールタの人生を例えるなら、まさしく「川」に他ならない。
たゆとう流れの中で、多くのことを知り、或は習得する。
流れの中で出会った他者との対話を通して、さらなる高みを極めていく。
ヘッセ自身が解脱者であるかのような壮大な物語。
その世界の美しさに、ただ、溜息。

今回の高橋氏のツボ訳は「ひげぼうぼう」でした。
ヒゲボーボー……原文、気になる(笑)
これは二度三度読んで身になる物語だと思いました。
完成度の高さ(って言うのかな?これだっていう言葉がみつからない)半端ない。

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「リムレスの空~魚住くんシリーズ5」榎田尤利(クリスタル文庫)




変わったのは魚住だけではなかった。
二人の関係の変化は、久留米をも変えていく。
人は、その一点に留まっていることはできなくて。
大なり小なり変わっていく。
個々の人生がある以上、
必ずしも心浮き立つような変化ばかりではなく、
それぞれが立ち向かっていかなければならない壁が存在する。
ハピエンでありながら、ちょっと切なくなるような思いを抱えての読了。
だけど、これ以外ない選択だと思うのです。
自分の脚できちんと立っていながら、深い想いを抱えて寄り添っていられる
この二人の距離感がたまらなくいい。
本当に素敵な作品です。


「風が吹いているときに船をお出しなさい。
 背中を押す追い風を感じたら、それがタイミングなのよ」
魚住の祖母のこの台詞、凄く響いた。
うん。頑張ろう、私。



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「嵐が丘」エミリー・ブロンテ(新潮文庫)




「嵐が丘」と「鶫の辻」
とても狭い閉塞的な空間で展開された、あまりにも拗れに拗れた人間模様。
最初は「この人たち、何で結婚したんだろう?」と「何でこの二人、結婚しなかったんだろう?」
という問いだけがひたすらグルグル巡っていたけど、
気付けば彼らの愛憎劇に引きずり込まれて一気に読み切りました。
核になるのは「嵐が丘」の三人。
自分を幸せにするために、他の生き方はなかったのかな?と
復讐に身を投じた彼に問いたくなるけれども。
彼女の傍に在ることが至上の幸せだったのであれば、どうしようもないのかな。
でも、やっぱりあなたのしたことは間違ってるよ?と言いたくなるの。
やるせない。
逞しく生き抜く術を本能で知っていた子供たちが手にした未来に安堵した。



愛憎に翻弄された当人たちがどれだけ拗れたとしても、
そんな大人の諍いに巻き込まれて潰された子供がとても可哀そう。
名前がややこしすぎて入り込むのに少し時間を要したけど、
識別できれば一気でした。
【ガーディアン必読 57/1000冊】

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「メルヒェン 」ヘルマン・ヘッセ(新潮文庫)



ヘッセの紡ぐ『メルヒェン』は、不思議な浮遊感の中に
胸を突かれるようなほろ苦さが織り交ざった物語。
透明な水が流れるような言葉の美しさに浸っていると、
不意に突きつけられた何かに息を呑む。
印象的なのは以下の三篇。
「アウグスツス」
愛されすぎることによる欠落と、見返りのいない愛を抱くことの充足。
ふり幅が極端すぎて疲れ切った彼が痛々しい。
「別な星の奇妙なたより」
彼が迷い込んだ世界こそが私たちの世界。
と、思えてしまったことがなんだか淋しい。
「ファルドゥム」
解けなかった魔法。
『メルヒェン』を冠するに、最もふさわしい物語。

「アウグスツス」を読みながら過ったのは『銀河鉄道999』。
愛されすぎて愛を返せず、生きることを放棄しかけた彼の心理と、
機械の身体で永遠を彷徨う人々の空疎さとが重なったのかな?
幼少期の私はメーテルじゃなくて鉄郎になりたかった。

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「野性の呼び声」ジャック・ロンドン(光文社古典新訳文庫)



空気が凍る。
あたかも、未開の雪原に放り込まれたかのように。
胸が軋むほどに伝わってくる半端ない臨場感に
息苦しさを感じながら頁を捲った。
突然に断ち切られたあたたかで優しい世界。
突きつけられた過酷な世界で目の当たりにする
悲哀と、絶望、極限までの寒さ。
それでも、生き抜こうとする彼の命の力強さ。
だんだんとロクでもない人間に挿げ替えられていく主人。
死の淵で巡り逢えたソーントンと交わした愛情。
だけど、そこに安住できなかったのは、彼の業なのか。
次第に強く聞こえてくる彼を呼ぶ声。
眠れる野性の見事な目覚め。
圧倒されての読了。

計画性皆無で行き当たりばったりな人間に振り回される犬たちが哀れ。
これ、会社の上司とか国のトップがこんなんだったら……と考えると、
寒気がする。
身体がぼろぼろになっても持ち場につこうとするデーヴには涙出そうになった。
彼の人生は橇を引くこと以外になかったんだろうな。
淡々と、だけど、半端なく力強く描かれる物語。
100年以上前に描かれているにもかかわらず、ものすごい躍動感。
今も彼等はそこに鮮やかに存在している。
私的にはものすごく印象深い、素晴らしい読書でした。
【ガーディアン必読 56/1000冊】


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