きままに読書★
読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。
カテゴリー「小説」の記事一覧
- 2020.09.02 「天平の甍」井上靖(新潮文庫)
- 2020.08.29 「この夏のこともどうせ忘れる」深沢仁 (ポプラ文庫ピュアフル)
- 2020.08.27 「宝石商リチャード氏の謎鑑定 祝福のペリドット」辻村七子 (集英社オレンジ文庫)
- 2020.08.24 「その先の道に消える」中村文則(朝日新聞出版社)
- 2020.08.09 「八月十五日に吹く風」松岡圭祐 (講談社文庫)
- 2020.08.04 「罪の名前」木原音瀬
- 2020.07.30 「宝石商リチャード氏の謎鑑定4 導きのラピスラズリ」辻村七子 (集英社オレンジ文庫)
- 2020.07.28 「宝石商リチャード氏の謎鑑定3 天使のアクアマリン」辻村七子 (集英社オレンジ文庫)
- 2020.07.26 「虎を追う」櫛木理宇
- 2020.07.08 「革命前夜」須賀しのぶ (文春文庫)
「天平の甍」井上靖(新潮文庫)
西暦700年代。
命掛けで海を渡り、異国で学んだ遣唐使たち。
移動も誰かに会うのも写経をするのも。
今の時代とは費やす時間があまりにも違う。
それでも一つのことを探求しつづける彼らの姿勢には背筋が伸びる。
志半ばで道を逸れる者にも事情があることが汲み取れるのもリアル。
唐に渡った普照が高僧鑑真を伴って帰国するまでに費やした歳月は20年。
当時鑑真は66歳。
二度と故国には帰れないことを覚悟しての来日であっただろう。
彼らの熱意の根源は仏教への深い思い。
唐招提寺の落成で物語は終わる。
彼らの痕跡を実際に辿ることができるのは僥倖。
興福寺、東大寺の大仏。唐招提寺。
1400年程前の建立物を未だこの目で見ることができる事実に、
自分が悠久の時の流れの中で生きていることを実感する。
そして支倉常長がヨーロッパへ渡るのがいかに大変だったのか。
実際にそれをサンファン館で学んできただけに、
その時代よりもさらに古の時に荒波を渡っていった彼らの苦難の道を思う。
初読の時は業行が辿った運命に「ああ」と頭を抱えたくなったけれども。
今なら「リスク分散」を強く主張したい。
「この夏のこともどうせ忘れる」深沢仁 (ポプラ文庫ピュアフル)
彼も、そして彼女も。
この夏に起こった出来事を決して忘れない。
それは、心の底に残された大切な宝物。
かすかな痛みと共に思い出す、ひと夏の想い出。
その夏の延長上に彼らはまだ共にいるのか。
いて欲しいと思ったり、いないだろうと思ったり。
そもそもありえなかったり。
それぞれの話の「ふたり」の関係が透明感のある文体で書かれた短編5編。
爽やかな青春物かと思って読み始め、
衝撃を受けた「空と窒息」。
やるせなくて涙が滲んだ「宵闇の山」。
二人の幸せを切に願った「生き残り」。
チクチクと胸が軋む読後感に浸っていたいお借り本。
暗闇の中に響くのは、寄せて返す波の音。
私がこの場所にいることを知っているのは私と連れだけ。
もしも今、この海に呑みこまれたら、
私がどこに行ったのかは誰にもわからないんだろうなぁと
ぼんやり思った過去の思い出。
ゾクッとしたときに繋いでくれた手のぬくもりがありがたかった。
あの時は頼もしいなぁって思ったんだけど、
あとから思えば、多分相手も怖かったんだろうね(笑)
「宝石商リチャード氏の謎鑑定 祝福のペリドット」辻村七子 (集英社オレンジ文庫)
ここでリチャードの過去が明らかに。
出逢った人によって人生が大きく左右されることがあるけれども。
もしもシャウルがリチャードを見つけることがなかったら?
どう頑張っても明るい未来が想像できなくて背筋が凍る。
シャウルと出逢い、後に正義と出逢い、
出逢いが更なる出逢いを呼び、
胸の内に秘めつづけた想いを解き放つことができたリチャード。
過去の出来事一つとっても
幾人もの人の想いが何層にも重なり、複雑に絡み合っていて
読み応えがある。
「諦めとは違う、現状の限りない肯定」
だから前に進むことができる。今この瞬間の、先にある未来へ。
「お鍋にミルクティ入ってるから」と言い置いて母親が出掛けた後、
寝起きの頭は鍋=コーンポタージュと直結し、
温めてスープカップに注いでスプーンで掬って口に入れて
「なんじゃこりゃ!?」と噴き出した思い出。
コーンポタージュだと思ってミルクティを飲むと
記憶にある味と直結せず、結果未知との遭遇になって慄くことになるのは経験値。
「その先の道に消える」中村文則(朝日新聞出版社)
美しく繊細な世界観は申し分ない。
そこに彼の思想をぶちこまれるのはなんだか興醒めだけど、
まぁ、そこは我慢できる範囲内。
作中で彼が描くのは「悪」ではなく「闇」。
闇に堕ちた、或はギリギリで踏みとどまっている人たちの心理描写は秀逸。
読む手は途中で止まらない。
だけど。
読み終わってみれば
私も「その周辺を彷徨う」類のカテゴリーに弾かれた感満載。
迷子にはならなかったけど、同調もできなかった。
途中までは凄く楽しかったんだけどなぁ。
葉山さんも嫌いじゃないんだけどなぁ。(むしろ好き)
なんだか惜しい。
エロが書きたければ、
いっそそれに特化したジャンルで書いてみるといいんじゃないかな?
途中であんだけぶっこまれるとしつこいわ!ってうんざりする。
そして、彼の描く女性が根本的に似たようなタイプばかりで、
そこは個人の好みだからいいんだけど、私的には面白みに欠ける。
とりあえずハードカバーで追いかけるのはここで打ち止め。
残念。
「八月十五日に吹く風」松岡圭祐 (講談社文庫)
十分な補給も与えられないまま、戦場で放置。
痩せ細ったその体でどう戦えと?
与えられた道筋は玉砕。
は?
ふざけんな。
と、当時の人たちは言えなかった。
言える風潮でもなかった。
人ありきで国がある。
人命は消耗品ではないのに。
そんなことも考慮されなかった戦争。
けれども。
北の地で孤立した五千人の兵たちを救出すべく力を尽くした男がいた。
彼に指揮権をた与えるべく尽力した男がいた。
正しいものは正しいと、叫んだ男がいた。
曲解された日本人像を正そうとした男がいた。
奇蹟は待っても起きない。
だから彼らは動いた。
たくさんの人に知ってほしい真実がここにある。
途中で脳裏を過った名前はヤン・ウェンリー。
彼も同じことをしたんだろうなぁ、という思いと、
彼にもこんな上官がいたら、という思いと。
泣きたくなった。
学生のころに読んだ『きけ、わだつみのこえ』を思い出し、
やっぱり泣きたくなった。
そして、作中で語られる彼らの言葉に涙。
うん。
戦争はやっちゃいけない。
「罪の名前」木原音瀬
場当たり的に嘘をつく人は、それを「嘘」と認識しているのか?
少なくとも「後ろ暗いこと」だという認識はないんだろね。
だから平気で嘘をつく。
作中の嘘つき二人はどちらも質が悪い。
が、より醜悪な嘘つきがどちらかは明白。
その性根が気持ち悪い。
人の命をなんだと思ってる?
と彼に尋ねたところでまともな答えが返ってくるとは思えない。
一対一でついた嘘は、押し通せるかもしれない。
だけど、複数からの視点で見られれば、その嘘は破綻する。
何で気付かないんだろう?と彼女に問うのは愚問かな。
少年が衝動に負けて彼を噛み千切ってしまいませんように。
濡れた布を被せての窒息は私のトラウマ。
『ラストエンペラー』で西太后がやらせているのを見て、恐怖で寝られなくなった少女時代。
木原さん、つるっとしたカエルを口に含んだことあるのかな?
と、ふと思ってしまった。
私にはモグラを咥えた経験のある友だちがいます。
ビロードの感触が大好きで、
ビロード生地のものを何でも口に含んでいた延長で何故かモグラ。
幼少期の話で親が悲鳴あげたって言ってたけど、そりゃそうだ(笑)
料理したカエルは美味しく食べられるけど、生きてるカエルは……うん。無理かも(笑)
「宝石商リチャード氏の謎鑑定4 導きのラピスラズリ」辻村七子 (集英社オレンジ文庫)
何もしなかったらこの手をすり抜けて何処かへ行ったまま、
もう二度と会うことができない。
それがどうにも納得できないことだったら?
動くしかないよね。
「やらないで後悔より、やって後悔」
本当にその通り。
やってハッピーな結末を手繰り寄せることができるかもしれないもの。
それにしても、由緒ある家の遺産相続の問題は息が詰まりそうになる。
過去に雁字搦めになって自由に生きられないって辛い。
リチャードの鎖を断ち切ったのは、そんな柵に縛られない正義。
でも、彼も祖母と母が背負ったものに縛られていた。
その身に絡まった鎖を外しあった二人。
これからが楽しみ。
それにしても正義の覚悟の決め方は半端なかった。
そしてみんな、相手が裏側に抱えた感情を読むのに長けている。
長けすぎている。
相手に関心を持つこと。
一緒にいたいと思うこと。
その根底の感情は全部「好き」でいいと思うんだ。
個人的にこの二人にはブロマンス止まりが希望。
「宝石商リチャード氏の謎鑑定3 天使のアクアマリン」辻村七子 (集英社オレンジ文庫)
真摯に相手を想っての言葉は胸に刺さる。
思わず耳を傾ける。
そして、受け止めてくれるとわかっている相手には
自分を語ることを躊躇わない。
謎多き美貌の宝石商、リチャード。
彼の過去の一端が紐解かれる3巻。
最初はイラッとすることもあった正義の言動だけど、
彼のまっすぐさと素直さにリチャードが少しずつ心を開いていく様が伺える。
リチャードの過去の傷がわかったからこそ、良い意味で正義に感化されているところがあるのね、
と思った矢先に……ちょっと、どういうこと!?という事態が発生。
そして私も途方に暮れる。
気になりすぎるのでこのまま次巻へ。
「親しき仲にもボーダーあり」は正義の言。
「親しき仲にも眉毛あり」は私の友だちの言。
え?なくてもいいじゃん!と言った私の意見は却下されました(笑)
そして昨日別件でメールしてた友だちがこの作品にハマっていることは知っていたので
話題を振ってみたら「身近で読んでる人がいなくて寂しかった!語れる人が出来て嬉しい!」
とキラキラメールが返ってきて私も嬉しくなりました。
今度語りに行かねば。
「虎を追う」櫛木理宇
過去に判決が下り、時効となった事件に対して、
退職した元刑事が胸に抱き続けた疑念。
犯人の一人が獄死したことをきっかけに、彼は事件の真相を探り出すことを決意する。
今は一般人となった彼が、どうやって?
今の時代の電子ツールの活用術と見事にマッチングしたアプローチが実に興味深い。
当然、若い世代の協力が必要で、彼の相棒は孫と友人。
その友人が抱えた問題も闇が深かった。伯母さん、キモチワルイ。
多くの人々の尽力で小さな綻びが広がるように明らかになっていく真実。
裁かれるべきは勿論犯人。
だけど、獣とわかっていて犯人を放しにした親の罪も重い。
夜更かし必須のお借り本。
ホームページを運営したり、会員制サイトに作品を投稿したことがある人たちには、
ああ、わかるわ~、なるほどなるほど、と共感したくなることがたくさんあると思う。
私がPCを初めて購入したのは……もう20年前になるのか。
ビルダーとHTMLと格闘しながらサイトを立ち上げた懐かしい思い出。
とても楽しかった。
「革命前夜」須賀しのぶ (文春文庫)
「罪には罰を」
彼はその罪を糾弾したけれども。
罪のからくりを見抜くことはできなかった。
事後にはそれぞれが抱えた罪の意識と、自責の念が燻っている。
それが当時のその国の在り様なのだと。
言い切るには納まりが悪いやるせなさ。
旧体制下の東ドイツ。
音楽を志すために集ったはずの若者たちが、
壁が崩壊する直前の時代の濁流に飲み込まれていく。
掲げる信念は人それぞれ。
だが、それが許されない国での閉塞感。
その中で各人の信念の元、行動した彼ら。
「親愛なる戦友」
大きな傷を負った彼の
それは皮肉でも当てこすりでもなく、掛け値なしの本音。
なんだと思う。
脳裏で終始響き続けるピアノ。
そして、描かれる世界の熱気と迫力に圧倒される、読メ登録1600冊目。
須賀さん、おもしろすぎてヤバイ。
既に積んでるのもあるけど、少しずつ集めていこうと思います。
締め付け具合はソ連の方がよっぽど息苦しく感じられるんだけど、
同種の居心地の悪さを感じる東ドイツ。
好きな時に好きな所に行けて、
思ったことをそのまま口にすることのできる自由を噛みしめる。
ちなみに。
自由に口にしすぎて、独り言に対して返事や突っ込みが入るという事態が
時々社内で発生しています。