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きままに読書★

読んで思ったことを徒然に。ゆるーくまったり運営中。

   

「天使のナイフ」 薬丸岳(講談社文庫)



【弱々しく途切れそうな問いかけだった。
     今でも。すべてを知った今でも。】

少年犯罪。憎しみの連鎖。そこに、さらなる悪意が折重なり、新たな不幸が広がっていく。
水面に派生する波紋のように。
十重二重に連なる事件を通して作者の提示したテーマはとてつもなく重い。
たとえいくつの子供でも、犯した罪をなかったことにはできない。
理不尽な暴力という被害を受けた方がいる限り、自分のしたことの責任は自分で負わなければいけない。
故に。
「被害者の存在を無視して真の厚生はありえない」
この言葉は真理だと思う。
厚生と贖罪は切り離して考えられるものではないのだと思う。

すべての子供たちが。
悪意に塗れることなく、健やかに育ってくれることを願ってやまない。


内容(「BOOK」データベースより)

生後五ヵ月の娘の目の前で妻は殺された。だが、犯行に及んだ三人は、十三歳の少年だったため、罪に問われることはなかった。四年後、犯人の一人が殺され、檜山貴志は疑惑の人となる。「殺してやりたかった。でも俺は殺していない」。裁かれなかった真実と必死に向き合う男を描いた、第51回江戸川乱歩賞受賞作。


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「ハルビン・カフェ」 打海文三(角川文庫)



【愛する者を殺された者には報復する権利があるはずだ。 その権利をきみは認めないのか。

 認めるもんですか。誰にも人を殺す権利なんかない。】

めまぐるしく移り変わる視点。時代。人間模様。
全体像の見えないジグソーパズルのピースを必死でかき集め、つなぎ合わせていくような感覚は圧巻。
バラバラだったピースがどんどん組み合わされていくにつれ、この物語に深くのめりこんでいく。
だが、懸命に作り上げていくパズルの全体像はどこまでも曖昧なままで、それ故に頁を捲る手が止まらない。
自分が息を詰めて物語の世界にどっぷりとはまり込んでいたことに気づくのは、
読了後に吐き出した吐息の重さで……だ。

海市という架空の都市を主軸にさまざまな思いを巡らせながら生きる人々の物語は
まさに秋の夜長にふさわしい、濃密な物語だ。

情報量が膨大な物語。
もう一回読んだら、より楽しめるに違いない。

内容(「BOOK」データベースより)

福井県西端の新興港湾都市・海市。大陸の動乱を逃れて大量の難民が押し寄せ、海市は中・韓・露のマフィアが覇を競う無法地帯と化した。相次ぐ現場警官の殉職に業を煮やした市警の一部が地下組織を作り、警官殺しに報復するテロ組織が誕生した。警官の警官による警官のための自警団。彼らは「P」と呼ばれた―。第5回大薮春彦賞を受賞した、著者渾身の最高傑作。


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「スロウハイツの神様 上・下」 辻村深月(講談社文庫)






スロウハイツの住人は、皆がどこか不完全で、未成熟で、不健全。
だからこそ、やさしい。
最終章では文中から伝わってくるあたたかさに、泣けて仕方がなかった。
天使を見つけた彼に「良かったね」と泣ける感性が自分の中にあって、よかった。

あたしはやっぱり彼女の感性が大好きです。
痛みと優しさとが混在する、なんとも言いがたい感じが好き。

「それは、青春のある一部分にだけ響く物語で、皆、自分のその時代が終わるとそこから卒業する」
作中に出てくるチヨダ・コーキという作家の作品を評した言葉だけれども。
辻村作品が胸に響くのは、その時代から抜けきることのできないまま、
或いは、その時代を何処かに引き摺ったまま大人になってしまった所以なのかもしれない……
なーんて。
青いこと言ってますねー。(笑)


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「マリアビートル」 伊坂幸太郎(角川文庫)



【ようするに、『ぜんぜん正しくないこと』を『正しい』と思わせることは簡単だって話だよ。
                     大事なのは『信じさせる側』に自分が回ることなんだ。】

物語の舞台となるのは新幹線の車内。
中盤を過ぎたあたりから、物語は一気に加速する。
奪うものは奪われる世界で生きる彼らの死は、因果応報、或は、自業自得、だ。
現役ではないとはいえ、そんな世界で何十年も生き延びてきたご夫妻は、文字通りの伝説の業者であり、
そんな猛者を相手にして、たかだか十数年生きただけの子供がうまく立ち回れるわけがない。
自身の力に驕り、多くの人の心を弄んだ報いは、必ず受けることになる。
二度目があるのなら、彼はもっとうまく立ち回れたのだろうけれども、さすがに人生は一度きり。
リセットはあり得ない。

パーシーのシールを貼った檸檬の想いと、それをちゃんと汲み取った蜜柑。
無関心なようでお互いのことを理解しようとしていた彼らが好きだわ~



内容(「BOOK」データベースより)

元殺し屋の「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた相手に復讐するため、東京発盛岡行きの東北新幹線“はやて”に乗り込む。狡猾な中学生「王子」。腕利きの二人組「蜜柑」&「檸檬」。ツキのない殺し屋「七尾」。彼らもそれぞれの思惑のもとに同じ新幹線に乗り込み―物騒な奴らが再びやって来た。『グラスホッパー』に続く、殺し屋たちの狂想曲。3年ぶりの書き下ろし長編。


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「ユダの覚醒 上・下」 ジェームズ・ロリンズ(竹書房文庫)





【今だけは、嘘でもいいから大丈夫だと答えてほしかった】

シズマフォースシリーズ3作目。
アメリカ映画を見ているような感覚に始終付きまとわれながら、一気に読了。
そのスケールの大きさは、期待を裏切ることはない。
繊細な感情の機微や情景を読み取りながら余韻に浸るのではなく、
大胆なアクションと人類の歴史を単純に楽しみながら、先へ先へと夢中になって読み進めていった。
この物語は、次作への謎と期待を残しながら幕を閉じる。
手に取るのが楽しみだ。

内容(「BOOK」データベースより)

ギルドに捕えられたリサは、巨大クルーズ船の船内に作られた研究施設で、『東方見聞録』の失われた章に記述されていた病原菌「ユダの菌株」の解明を迫られていた。そして、発症した患者のうち、ただひとり生き残った女性スーザンに解明のヒントがあると確信する。一方、グレイは両親を人質に取られたまま、セイチャンとヴァチカンの考古学者ヴィゴーの協力のもと、「天使の文字」を解読しつつ、『東方見聞録』の失われた章に記された場所にたどり着きつつあった。そして、モンクはリサを救出し、クルーズ船から脱出する算段を立てていた…歴史と科学の道筋が、ある世界遺産の一点を示す中、世界各地でも新たな患者が発生し始める…。果たして「ユダの菌株」とは一体何なのか?グレイの両親の運命は?そして、組織を裏切ったセイチャンは本当に信用できるのか…。

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「最後の命」 中村文則(講談社文庫)



【だから、ずっと覚えていなければならないんだよ。
 人間の命が、厄介だっていうことを】

半端ない嫌悪感と不快感で読むのをやめようかと何度か思ったけれども。
結末を見届けないと、このイヤな感じを引きずったままだと言い聞かせながら読み進めていくうちに、
胸の中に淀んでいたそのイヤな思いは、別の感情に変わる。
理解も納得も容認もできない佐伯の所業だけれども。
だけど、そうやって「犯罪者」になっていく人もいるのか……と思うと、
なんだかやりきれないものを感じるのも事実。

幼少時の心の傷もまた、とても厄介で、その後の人生を左右しかねないほどの根深い痕となる。
願わくば、一人でも多くの子供たちが健やかに笑っていられる世界でありますように。


内容(「BOOK」データベースより)
最後に会ってから七年。ある事件がきっかけで疎遠になっていた幼馴染みの冴木。彼から「お前に会っておきたい」と唐突に連絡が入った。しかしその直後、私の部屋で一人の女が死んでいるのが発見される。疑われる私。部屋から検出される指紋。それは「指名手配中の容疑者」である。冴木のものだと告げられ―。

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「火曜日のごちそうはひきがえる」ラッセル・E・エリクソン(評論社)



【もし、友だちをもつとしたら、おまえさんのような友だちがいいよ】

小さいころに好きだった本は、大人になっても好き。
そして、素敵な話は何年たっても色あせることなく、素敵な話のままだ。

友だちのいない気難しいミミズクと、陽気で楽天的なカエルが心を通わせるまでの物語。
一緒におしゃべりをしながら穏やかな時間を過ごす友達っていいなーと、
素直に思わせてくれる作品です。

自分のお誕生日のごちそうに食べるつもりでつかまえたウォートンのためにジョージがとった行動。
そんなジョージの危機にウォートンがとった行動。
是非読んで、そしてあたたかい気持ちになってもらいたいです。

内容(「BOOK」データベースより)
ウォートンとモートンは、ヒキガエルのきょうだい。ウォートンはそうじがだいすき、モートンは料理がだいすき。二ひきは、なかよく、土の中の家でくらしています。冬のある日、ウォートンは、おばさんをたずねることにしました。「ようく、ようく気をつけるんだよ」モートンはしんぱいそう。ウォートンがスキーですべっていくと、雪の上に黒い影!見上げると、ミミズクが、大きなつばさを広げて…。ぼく、ミミズクのたんじょう日のごちそうになんか、ならないぞ!第29回青少年読書感想文全国コンクール課題図書に選ばれた作品。

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「海賊と呼ばれた男 上・下」 百田尚樹(講談社)





【たとえ九十九人の馬鹿がいても、正義を貫く男がひとりいれば、
 けっして間違った世の中にはならない。
 そういう男がひとりもいなくなったときこそ、日本は終わる】

人は人とつながり、人のために手を差し伸べる。
同じ目的のために個々の力があつまれば、とてつもなく大きな力を産む。
それこそ、国をうごかすほどの。
国岡が最後まで己の義を貫き通すことができたのは、
彼の志に魅せられ、その漢気に惚れた人たちの助力があったからこそだ。
だが、それだけの男たちを惹きつけてやまない国岡の人としての器の大きさには、
ただひたすらに感服するばかりだ。
想像を絶するほど過酷な状況下で、互いを信頼しあい、希望を持ちながら働ける環境にあった彼らがうらやましい。
使命感を持ち、全社員が一枚岩となってやり遂げる仕事には、とてつもない喜びとやり甲斐があったに違いない。
そんな環境を作り出した国岡は、やはり時代の傑物だったのだと思う。

戦後の混乱をわずかの年数で収め、そして高度な成長を遂げた日本。
国岡鐡造という男の人生を通して、戦後の日本だけではなく、世界の情勢までもがとてもわかりやすく語られた物語だった。

内容(「BOOK」データベースより)
敗戦の夏、異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、なにもかも失い、残ったのは借金のみ。そのうえ石油会社大手から排斥され売る油もない。しかし国岡商店は社員ひとりたりとも馘首せず、旧海軍の残油集めなどで糊口をしのぎながら、たくましく再生していく。20世紀の産業を興し、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。その石油を武器に変えて世界と闘った男とはいったい何者か―実在の人物をモデルにした本格歴史経済小説。

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「あるキング」 伊坂幸太郎(徳間文庫)



【人は死ぬまでは不死身だ】

不思議な読後感の本だった。
いや、この物語自体が不思議なのか。
だが、その不思議に対しての「何故?」を考える必要はない。
「きれいはきたない」ですべてに説明がつくからだ。

自分を含め、己の将来について思い悩む人が数多いる中、
生れた時から「野球選手」という己の道を貫き通した彼の迷いのなさはうらやましい。
と同時に、人よりも抜きんでた才能を持ったが故の苦労と煩わしさは、気の毒でもある。
だが、遠回りを余儀なくされても、彼は己の目指した「野球選手」となり、前代未聞の記録を打ち立てる。
後悔はないはずだ。

結果がどうあれ、野球は楽しい。
去り際の監督の、最後の言葉。
私自身がどんな道を歩むのか、いまだ途上でわからないけれども。
人生は楽しかった。
最期にそう言える道であればいいと思う。

内容(「BOOK」データベースより)
この作品は、いままでの伊坂幸太郎作品とは違います。意外性や、ハッとする展開はありません。あるのは、天才野球選手の不思議なお話。喜劇なのか悲劇なのか、寓話なのか伝記なのか。キーワードはシェイクスピアの名作「マクベス」に登場する三人の魔女、そして劇中の有名な台詞。「きれいはきたない」の原語は「Fair is foul.」。フェアとファウル。野球用語が含まれているのも、偶然なのか必然なのか。バットを持った孤独な王様が、みんなのために本塁打を打つ、そういう物語。

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「八日目の蝉」 角田光代(中公文庫)



【もし、二手に分かれる道の真ん中に立たされて、どちらに行くかと神様に訊かれたら、
 私はきっと、幸も不幸も関係なく、罪も罰も関係なく、
 その先に薫がいる道を躊躇なく選ぶだろう】

犯罪は肯定しない。まずはそれが大前提なわけだけど……

母であった「あの人」の元から引き離されて泣いた薫。
「あの人」のもとへ帰ろうと、一人、道を歩いた薫。
たとえ、実の親元から不当に連れ去れらた子どもだったとしても、
「あの人」……希和子に愛されて大切に育てられたことが痛いくらい伝わってくるからこそ、
場面場面でなんだか泣けて仕方がなかった。
どうしてこの人たちは「親子」でいられないのだろう?と。
けれども、偽名を使い、過去を偽って生きていかなければならない生活は、
遅かれ早かれ破綻する。
希和子は法で裁かれ、薫は恵里菜として実の両親のもとで暮らすことになる。

時を経て……
かつて、幸せだった場所を、ただ遠くから眺めることしかできない希和子。
新しく前へと進むためにその場所を訪れ、今の家族と新しい一歩を踏み出そうとする薫。
それでいいのだと思う。
彼女たちの人生は、交わらないままでいい。
それでも、希和子が薫の母であることには変わりないのだ。

内容(「BOOK」データベースより)
逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。第二回中央公論文芸賞受賞作。

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